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小説「猫踏んじゃった」
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できると思います。それに来年は東野町内会創立50周年記念行事も控えていま
すから、ぜひとも続投してください」
  と先田副部長がお願いする。しかし、
  「・・・」
  と返事はない。
  宮城会長はかといって自分以外の会長候補を上げる訳でもない。「今まで俺を
ないがしろにして来て、辞表を提出した今になって何を言うのか」という訳でもな

い。元植木屋か植木職人だったという彼は、町内会の役員としては最古参に近く、
歴代の個性ある会長の下で、数々の辛酸をなめて来たに違いない。そこには何
時の時も本音は絶対見せないと言う、戦乱の世を生き抜いてきたしたたかさがあ
った。逆に、自分の答弁に選考委員各自がどう反応するか、楽しみながら話してい
るようにも聞こえた。

  「そこを何とか・・・」
  と先田副部長からもお願いするが、
  「今年の雪解けは早いかもしれんな?」
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  宮城会長は本題をそらすかのような話を始める。
  早川は、

  (会長は相変わらず自分の本音は見せず、年寄りの老獪さで優柔不断だ。これ

ではいつもの理事会同様何時までたっても結論が出ない)
  と判断した早川は、東野町内会規約を取り出し、話し出す。
  「会長さん、規約にはこう書いてあります。第12条(役員の任期)の3項、『役員
は、辞任又は任期満了の後においても後任者が就任するまではその職を行うこと
とする』とあります。3月13日の理事会の役員選考委員会の答申で会長だけが

まらなければ、そのまま続投いただくという事でわれわれは承認をいただくつもり
です」
  と、早川は宮城会長の決断を迫る。しかし、宮城会長は了解したのか、しなかっ
たのか、態度に何の変化も起こらない。
  そして早川たちの心配を他所に、
  「それじゃあな」
  と言って帰って行った。みんな望みの綱を断ち切られたように押し黙る。
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  早川は宮城会長が帰った後、
  「宮城会長には最後まで『うん』と言っていただけなかった。最後の手段でした
が、
これより他の手立てはありません。われわれは会長に話した内容で理事会

に答申します。なお、万が一この案が否決されれば、全権委任されたはずの役

員選考委員会が否定されたと同じですから・・・その時は全員辞任するしかあり
ません。みなさんにはこの事をどうかご理解をいただきたいと思います」
  と話し、メンバー一人一人の顔を見る。みんなこわばった硬い顔をしている。引
き続き
  「長い間たいへんご苦労をお掛けしました、力不足ではありましたが、全力を尽
くしました。みなさんのご協力に感謝申し上げます。ありがとうございました」

  早川はこう言ってメンバーに深々と頭を下げた。事がうまく運べば、これで最後
の役員選考委員会となるはずだった。
   
  こうして3月13日、運命の第11回理事会の時を迎えた。 
  議題は、平成25年度事業計画(案)、定期総会日程、各部の報告、選考委員
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会の報告、その他である。例によって、4番目の「選考委員会の報告」に理事達の
関心が集まり、その前の議案については質疑がほとんどない。 
  (もうすぐ出番だ)と早川は思う。しかし、現役時代の理事会に立つ時のように胃
が痛くなるような緊張感はまったくない。(原案が承認されるか、否決されるか、結
果がどう出ようと責任は問われない)と早川の気持ちは妙に冷めていた。
  坂本総務部長が、いつもとは違ったこわばった顔で、

  「それでは、最後の議題、選考委員会の報告です。早川委員長から報告願いま
す」
  と坂本総務部長がマイクを早川に渡す。
  マイクを受け取った早川は、会場をおもむろに見回し、
  「ただ今より、役員選考委員会の答申させていただきます。最初に会長以外の
三役候補者を発表いたします。副会長には北村副会長と竹山保健衛生部長の
お2人、総務部長には先田総務部副部長、経理部長には小谷東5分会理事でご
ざいます」
  早川はここまで発表し、いったん息をつく。会場が「会長は誰だ」と固唾を呑ん
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第10話 迷い道  その5 ★★★★★






















           

         


























































































































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