とお願いする。
「経理部長と分会長の2つのポストをねぇ?それは大変じゃないですか?」
「まだお若いでしょうし、あなたのキャリアなら町内会の経理などは難なく出来ま
すよ」
「そうですか」
と小谷理事はにんまりする。
「高木分会長には私からお話しておきます」
「分かりました」
小谷理事はそういって熱々のハンバーグ・ランチをほおばる。早川も久々のハ
ンバーグに舌鼓を打つ。
この後、時間をおかず、高木分会長に顛末を話すが、彼は、
「本当に余計な事をしてくれるよ。自分の後任がいなくなったらどうするのか?」
と、まだ信用できない様子だった。
しかし、高木分会長のこのしつこさが遠い要因で、後に選考委員会の決定が大き
く揺らぐとは夢にも思わなかった。この時点では(後は現宮城会長が会長続投を了
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解してくれれば、選考委員会の構想は完成する)と早川は思っていた。
早川はいよいよ最後の難関「宮城会長の承諾」に立ち向かうことになる。
3月6日、早川は第6回役員選考委員会を開き、会長以外の三役の候補者の了
解を取り付けた報告すると共に、すでに辞意を表明している宮城会長にどうしたら
引き受けてもらえるか相談する。
「会長の家はすぐそこだから、ここまで来てもらったら?委員長1人で話すのも大
変でしょう?」
と西 女史が早川の顔を見てにんまり笑う。
「そうだ、それがいい」
とのみんなの声に、西 女史が早速電話する。
「ちょうど居たわよ、『選考委員会が相談に乗って欲しい』と言うと、会長は『今す
ぐ行く』って・・・」
西 女史が伝える。
「それは助かった」
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早川が西 女史に礼を言う。2人は町内会館玄関先の喫煙席の飲み友達でも
あった。
数分して、宮城会長が町内会館の2階の小部屋に入ってくる。
「忙しいところ、お呼びだていたしまして」
早川が立って頭を下げる。
「何も、何も・・・ところで話って、何だ?」
宮城会長が早川委員長の顔を見る。役員選考委員会の動きはうすうす知ってい
ると思われるが、それはいつものようにおくびにも出さない。
早川は、選考委員会の経過を詳しく説明し、続いて、
「副会長候補には北村副会長と竹山保健衛生部長、総務部長には先田副部長、
経理部長には屯田銀行のOBの小谷東5分会理事と、それぞれ内諾を得ました。し
かし、肝心な会長候補がなかなか決まらないのです。そこでみんなで話し合った結
果、会長に引き続きやっていただけないか、というお願いです」
と話をする。
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「みなさんご存知の通り、年末に俺はすでに辞表を出したんだよ。俺は身体の
あちこちが痛いし、耳も通いからこれ以上会長は出来ないよ」
と笑う。
「これまで2年間もやってこられたんじゃないですか、大丈夫ですよ」
と早川が太鼓判を押す。
「そうだ」「そうだ」
とメンバーも早川を加勢する。
「このくらいの小さい部屋で話ではまだ聞こえるけど、理事会や連合町内会の会
議のような大きな会場だと『わんわん』と響いて話がよく聞き取れないのさ・・・なん
せこの通りだから」
と、なおも断り続ける。
確かに宮城会長は毎月の理事会でも、遠くの人の声が聞こえないのか、よく耳
に手を当てていた。それで坂本総務部長が痺れを切らし、勝手に自分流の答弁す
ると言う構図になっている事は事実である。
「それは理事の机の配置をひな壇のもっと近くに寄せて配置するなどして解決
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