「町内会の敬老会、社会見学、ブロック別新年会、愛好会などに参加する顔ぶ
れは毎年同じである。お年寄りが元気で参加するのは喜ばしい事だが、考えて
みると元気な方は町内会会費の何倍もの恩恵を受けており、一方病弱な方は会
費分の恩恵にも浴していない。不公平というか、こういう事も考えてみる必要があ
るのでは・・・」と発言した事がある。
早川は何故か当時の大沢分会長のこの言葉を思い出していた。しかし、分会
長から副会長になった大沢先輩はこの頃ほとんど発言しなくなった。三役会議で
旧勢力に押されているのか、はたまた何を言っても彼らは聴く耳を持たないのか、
想像はつくが早川は心配していた。
この後、8月4日(土)と5日(日)、恒例の夏祭りが実施される。この時期の気温
は毎年30℃前後だが、今年にかぎって予想は24℃で涼しく、会場の設営と撤
去は仕事がはかどる。会場の設営と撤去の他、男性理事には別の仕事が割り
当てられており、早川ら5人には防犯係りを担当する事になった。暑がりの早川
には、炎天下のテント内の焼きソバ係よりはるかに良い。
理事会で一言も発言しないでただ座っている男性役員も、この時ばかりは水を
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得た魚のごとく生き生きと動いている。みんな勝手知ったる仕事で、誰にも指図さ
れないから楽しいのだろう。
夏祭りも無事終わった8月8日(水)の第5回理事会では、9月9日(日)に開催予
定の平成24年度敬老会の進め方と役割分担がかかる。
例によって、滝川福祉部長より、一方的な高圧的な説明が長々と続く。第2回理
事会でかかったとおり、対象者を満78歳以上にする事は良いとしても、昨年同様
〔児童民生委員に対象者をテーブル案内させ、かつ接待させる〕という。
「本来は招待すべき児童民生委員にお手伝いを頼むのは何かおかしいのでは
ないか?」
早川は疑問に感じ、異議を申し立てようとするが、坂本総務部長は「そういう事
です、みなさんよろしいですね」とこの件をさっさと終了する。毎度の事ながら滝川
福祉部長の説明に反感を持つ理事が多く、質問を受けていたら、理事会がさらに
長引くと思ったのだろう。他の理事たちも夏祭りとラジオ体操で疲れているのか、
何も言わない。
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釈然としない早川は、自宅に戻ると疑問点を列記した町内会三役あての文書を
早速作成する。その要旨は、
『 8月8日の理事会の敬老会のやり方について、下記理由により十分に審議さ
れたとは言えず、再度実行委員会を開催するか、分会長会議を開催するか、など
の措置を講じてもらいたい
記
1.会場の席の関係で対象者を満78歳以上2歳も上げしたにもかかわらず、児
童民生委員と分会長の席を30も設けるのは、矛盾していること。
2.児童民生委員と分会長の席を設ける件は、両者の意見を聞いていないし、
児童民生委員は知らされていない。
3.児童民生委員は来賓として招くべきであり、お手伝いに使うべきではない。
4.このほか、受付や記念品の配達方法などの実態を知らない人が原案を作成
している。 以上 』
である。
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翌8月9日、早川はラジオ体操が始まる前に、この文書を久井理事に見せる。
「書いてある通りだよ、三役はこの矛盾が分かっていないのではないか?それで、
これをどうやって出すんだ?」
久井理事が早川の顔を見る。
「ラジオ体操が終わったら、わが分会選出の北村副会長に渡すよ、彼女は福祉
部所管副会長だからね」
早川が答えると、
「そうか、それが筋だよね」
とニヤリと笑う。
こういう経過があって、この文書は北村副会長経由で三役会議にかかったはず
であった。しかし、待てど暮らせど何の返事もなかった。三役会議にかかったのか、
かからなかったのか、北村副会長から早川に何も言ってこない。
ラジオ体操の最終日である8月19日(日)、早川は思い余って北村副会長に訊ね
る。
「北村副会長、あの件はどうなりました?」
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