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イタリアかけある記

    

  「お父さん外は寒いから風邪引くわよ、煙草は中で吸ったら?」
  妻の景子が早川四郎の動きを察して、背後から声をかける。景子も歳のせい
か、煙草の煙にむせる事があり、早川四郎は極力家の外で煙草を吸うようにし
ていた。
  「そうするか」
  早川はほっとして踝を返す。
  今日は平成24(2012)年3月14日、午後6時30分から、東町町内会の第11
回理事会が開催される。家を出るにはまだ早く、早川は時間つぶしに煙草を吸お
うとしたのであった。
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  早川は台所の大きなフードの下でおもむろに煙草の火をつける。早川家では、
平成20年の退職を機に、自宅の内装を全面改装し、同時に台所の換気扇につ
いても、業務用の強力な物に取り替えていた。
早川の吐いた煙が渦を巻いて上の
フードに吸い込まれていく。気持ちが良いほどである。
 
  煙草といえば、四郎は幼い頃、不思議な器械を見た記憶がある。
  外で遊んで家に帰ると家族が誰もいない。所在無く箪笥の上を見たら、小箱が
目に付いた。
  (何か大事な物が入っているのか?)
  好奇心一杯で、箪笥の前にミシンの椅子を置いて畳の上にその小箱を下ろす。
上の引き出しをそっと引くと、奇妙な器械があった。キャラメルの箱くらいのの大
きさで、うすい布切れをつないだ2本の細い棒を両脇のアルミ板で挟んでいる。
その下には英語の辞書を千切ったようなうすい紙切れが1枚あった。
  「もしかしたら紙巻き煙草を作る器械か?」
  四郎は四六時中煙草を吸っている近所のお爺さんが、
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  「戦時中は刻み煙草も配給で、それもなくなると『すかんぽ』の葉を干して刻み、

紙巻き器械で巻き煙草にして吸ったものさ。紙は英語の辞書の紙がうすくて最高
だが、辞書自体が高く、古くなった辞書でも破るのはもったいないからなかなか手
に入らないのさ・・・」

  と言っていたのを思い出す。 
  「そうすると、うちの父さんも紙巻き作っていたのか?この器械はどうやって手に
入れたのかな?そして紙はどうしたのかな?」 と独り言を言う。
  いたずらして作ってみたいと思ったが、すかんぽの干した葉もなければ、姉の英
語の辞書を破るわけにも行かない。諦めて紙巻き煙草製造器を引き出しに入れ、
小箱も箪笥の上に戻しておく。
  当時、四郎の父長治は刻み煙草を煙管で吸っていた。煙管は先から吸い口まで
真ちゅう製で長さは約20cmほど、煙草入れも真ちゅう製で、直径・高さともに6cm
の円柱形の重いもので、ねじ式の蓋がついていた。
  刻み煙草の銘柄は戦後昭和24年に発売された「みのり」か「ききょう」だった。ど
ちらが高かったのか分からない。
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  父長治は、出漁後の網の手入れが終わると、刻み煙草を手のひらで小さく丸め、
雁首の穴につめ、マッチで火をつけ、ニ、三服吸っては、煙草入れの蓋に熾(お)き
を落とし、次の小玉を用意をして詰め、先の熾きから火を移す。父の美味そうに煙
草を吸う姿は今でも鮮明に覚えている。

  その頃のお婆さんの中には、煙草吸いもけっこういて、その中には吸った後の熾
きを左の手のひらに受け、その間に右手で次の小玉を詰め、手のひらから火を移
すという怪物もいた。これまた驚きの連続技だった。余談だが、お婆さんが道端で
着物の裾をまくり、立小便する姿もよく見かけたものである。苫前は田舎と言いな
がら昔のお婆さんは豪快だった。
  父長治は何を思ったのか、一度だけ四郎に煙管の掃除を手伝わせた事があっ
た。針金にちり紙を巻いて、吸い口から差込み、ねじりながら取り出す。ちり紙はコ
ールタールのように真っ黒になり、ヤニの匂いがそこいらじゅう漂った。
  「臭いっ」 四郎は思わず顔をしかめる。
  四郎はそれ以来煙草に興味を失ったといってよい。
  戦後も10年経ち、煙管の時代ではなくなったのか、昭和31年に両切り煙草「い
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第7話 プカ プカ プカ  その1 ★






















           

         
















































































































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