きれいな花の写真

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私のCD放浪記

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      【番外編】





●小説
 「猫踏んじゃったU」


なつかしの街角

忘れえぬ猫たち

小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

    

  「ここだけの話だけれど・・・わが町内会で『オレオレ詐欺』が起きたみたいだよ」
  久井理事が小声で話す。小声といっても耳の遠い久井理事の声は大きい。
  「ほんとかい?それは事件だ」
  隣の小宮理事が驚く。
  「札幌一の会員数を誇る町内会だから、さもありなんか・・・」
  向かいに座っていた早川がつぶやく。
  平成24(2012)年1月7日、東野町内会恒例の新年交礼会の宴席の一角に、
いつもの3人が座っていた。
  「近所の婆さんたちの話では、被害者はなんでも間岩川近くに住んでいる独り暮
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らしのお婆さんらしい、被害額は100万円とか・・・」
  久井理事がもっともらしく話を続ける。
  早川は「被害者は間岩川近く」というその住所を聞いて、ある1人のお婆さんの
顔を思い浮かべた。

  それは、1昨年の11月初旬の午前11時頃だった。早川の家に1人のお婆さん
が訊ねてきたのである。
  「ごめんください、早川さんはおられますか?」
  インターホンの声に早川は答える。
  「はい、早川ですが?」
  「先だってはきれいな写真をありがとうございました」
  とのドアの向こうの声に早川は戸を開ける。寒風の中に立って震えている小さ
いお婆さんの顔を見て、玄関の中に招き入れる。しかし、早川は名前を思い出せ
ない。
  早川は、ご近所の花が咲く頃、カメラを持って写して歩く。その時、庭に家人が
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いれば必ず声をかけている。庭にいるのはお爺ちゃんよりお婆ちゃんが多い。そし
て後日、写した写真を自宅の住所を印刷した封筒に入れてお届けしていた。不在
の時は郵便受けに入れて来た。
  「はい?」
  早川は必死になって、どこの家のお婆ちゃんだったか、記憶をたどるがさっぱり
思い出せない。特に今日は昨日のお酒が残っているのか、特別脳の回転が悪い。
  「昨日ね、山形から柿を送ってきたの、どうぞ召し上がってください」
  とお婆さんは大きな袋を差し出す。
  「こんなにたくさん?重いのに、寒い中恐縮です。ありがたくいただきます。お元
気でしたか?」
  「はい、おかげさまで・・・よいお年を!」
  「お婆ちゃんも・・・良いお年を!気をつけてお帰りください」
  「それでは、失礼します」
  と言ってお婆ちゃんが帰って行った。帰る後姿を見ると、足が不自由なのか、震
えるように一歩一歩踏みしめて帰って行った。 数分してから、
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  (そうだ!どこのお婆ちゃんだったのか?どっちへ帰っていったのか?確かめな
くっちゃ)
  と早川は気づき、あわててウインドブレーカーをひっかけ、後を追う。自宅に通
ずる道を四方八方探していると、東野小学校に向かう道のはるかずっと先に上体
を揺らしながら歩いているお婆さんの姿があった。
  早川は諦めて自宅に戻り、妻の景子に事の経過を話す。
  「寒いのにこんなに重たい柿をもって来てくれた、ありがたい話さ、だけどどこの
お婆ちゃんだったか?どんな花だったか?恥ずかしい話だが思い出せないんだよ
・・・私の記憶もこの頃いい加減だよ・・・」
  「いつもよ」と景子は笑って、早速柿をむいてくれる。お婆ちゃんが届けてくれた
紅く大きな庄内柿は甘くて格別美味しかった。

  そして1年経ち、昨年の初夏、早川はカメラを持って間岩川流域の住宅街を歩
いていた。ある庭のピンク色のモンタナ(クレマチスの一種)を見つけた時、傍らに
お婆ちゃんが草をむしっていた。
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第6話 母さんの歌  その1 ★






















           

         
















































































































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