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私のCD放浪記

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      【番外編】





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忘れえぬ猫たち

小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

  痛いところを疲れた晴山君がちよっとひるむ。
  「晴山は二日酔いの次の日はいつも若年性認知症だよ。アルコールで脳みそが
萎縮しているから、将来のりっぱな認知症候補者さ」
  高橋君がにやにや笑って言う。
  「そんな?高橋先輩だって同じでしょ?」
  晴山君が口を尖らす。
  その時焼きたての牛タンが座卓に運ばれてくる。
  「さあさあ、内輪もめはやめて牛タンをいただきましょう」
  大木女史が大人気ない3人をたしなめる。

  「早川先輩、牛タンの味は同です?」
  一切れ食べた早川に高橋君が訊ねる。
  「これは美味い!」
  この店の味付けと焼き加減に感心した早川は続いてスープを飲んでみる。どう
やら定番のテールスープではなく、牛タンスープである。白髪ネギがこんもりと盛
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られている。こちらも絶妙な塩加減と柔らかさである。入っている牛タンの量も多
い。

  4人は汗をかきかき、黙々と牛タンとスープを食べる。
  「みなさん、ご飯はいかがです?」
  遠くから店長が尋ねる。
  「いるいる」
  晴山君と高橋先輩が手を上げる。
  「こちらは日本酒をもう一杯!大木さんは?」
  早川は対面の大木女子の顔を見る。
  「私はウーロン茶をもう一杯」
  「白飯2つ!日本酒一杯!ウーロン茶一杯!」
  店長が復唱する。
  しばらくは餌にありついた豚のようであった。
  「これなら柔らかくて後数年は食べられそうだ・・・」

  早川が何気なく独り言を言う。早川は硬いものを食べたとたん、なんでもない奥
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歯の端が4分の1ほど欠けて修理したばかりである。歯医者によると見かけは普
通でも、中で虫歯になるケースがあるという。それ以来、早川は硬い物を食べる

時また歯が壊れないかと慎重になる。
  すると、それまで黙々とご飯を食べていた晴山君がすかさず口を開く。
  「昔から歯・目・まらと言うからね、歳だよ歳」
  「言われなくとも分かっているよ」
  早川が答える。
  2人のやり取りを聞いて、耳年増の大木女史がくすくす笑っている。
  こんな落ちがついて、1年ぶりの再会は終わった。
  「楽しいひと時でした、みなさん忙しいのにありがとう。今日のお代はこれで足
りるかな?」

  前回、割り勘を提唱した早川は5千円札を差し出す。
  「十分です」
  手配をした晴山君がふざけてうやうやしく受け取る。

  「早川先輩、またやりましょう!お元気で」
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  高橋君が早川の手を握る。
  「ありがとう、皆さんもお元気で!少し早いけれども良いお年を!」

  早川がみんなの顔をぐるりと見回し、先に店を出る。

  店の階段を降りると、冷たい外気が漂い、酒飲みにはまことに心地よい。
  (そうだ、地下鉄大通駅まで歩いて行こう)
  早川はゆっくりと歩き出す。
  (ありがたい後輩達だ。しかし、今日は何だかボケの話で終始したな・・・まさか
私の年代に話を合わせてくれた訳でもあるまい。だとすると、老齢化社会で、みん
なの周りにもボケ老人が増えてきているという事か・・・当の本人はボケていると
いう自覚がないから何の不都合もないが、周りで面倒を見る人はたいへんだ。昔
は身体と頭が比例して老化したから良かったのに、今は身体が丈夫でも脳の老
化は進むから、こんな事になるのかも知れないなあ・・・長生きは良い事ばかりで
はないなぁ・・・)

  そんな事を思いつつ家路についた。
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第5話 思い出してごらん  その5 ★★★★★






















           

         



























































































































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