きれいな花の写真

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴 

おじさんの料理日記 

私のCD放浪記

私のCD放浪記
      【番外編】





なつかしの街角

忘れえぬ猫たち

小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

  「元の職場にはなるべく顔を出さないのは私の主義だから・・・」
  早川の現役時代、前任者が出張してくるたびに元の職場にやってきて、部下達
や取引先まで引き連れて飲みに行く先輩がいた。こんな事もあって、早川は転勤し
てからも、退職してからも前の職場には極力顔を出さないようにしていた。
  「分かっています。早川先輩はみんなが集まる口実ですから・・・さっぽろ駅前に、
牛タンの美味しい店が開店したんですよ、来週はいかがです?」
  晴山君が畳み込む。
  (美味しい牛タンか、しばらく食べていないなぁ)
  エサに釣られた早川は、「毎日が日曜日だから、いつでもいいよ」とつい答える。
  「それじゃ、他の皆さんの都合を聞いて、またご連絡します」
  相変わらず晴山君はせっかちである。

  こうして、11月の某日の夕方、さっぽろ駅前の牛たん屋「吉兵衛」に、早川四郎

と元の部下達、高橋部長と晴山課長と大木女史(福利厚生副課長)が集まった。早
川が階段を上り、店のドアを開けると牛タンの焼ける芳ばしい匂いが押し寄せてき
105


た。後輩3人はすでに集合しており、小上がりの座卓には、すでに前菜の刺身類や
サラダ類が並んでいた。
  「店長、ビールジョッキの大2つ、小2つ!」
  晴山君がすぐさま炭火の前の店長に声をかける。
  「分かりました」と店長がすぐに復唱する。
  「元気そうで何よりです」
  大木女史が早川の顔を見ながら言う。
  「皆さんも元気そうで・・・忙しいのに集まっていただき恐縮です」
  早川が頭を下げる。
  「12月前だからまだ夜の方は暇ですよ。この店が開店し、早川先輩を思い出し
ましてね」
  年長の高橋君が話し出す。
  「早川先輩が親会社におられた頃は、あの店が美味いとか、この店が美味いと
か、よく牛タンを食べに連れて行ってくれましたよね?」
  「そうだったね、みんな育ち盛りで、丼飯をお代わりし、牛タンがなくなったら南
106


蛮の味噌漬けでご飯を食べていたね・・・」
  早川が当時の事を思い出す。
  「この店には何度か来ていますが、なかなか美味しくて・・・」
  「それは楽しみだね」
  そうこうしているうちにビールが届く。
  「それじゃ、皆さんの健康を祝して、乾杯!」
  高橋君が音頭を取る。

  「まだ、町内会の仕事をしているんですか?」
  大木女史が訊ねる。
  「まあね、分会長は代わりを見つけなきゃ辞められないのさ・・・しぶしぶやって
いるよ、相変わらずごく一部の連中がかき回しているのでストレスは溜まるがね」
  早川はそう言って、ビールを飲み干す。
  「早川先輩、町内会に腹を立ててやっているうちはボケないからいいかもしれま
せんよ」
と晴山君がニヤリと笑う。
107


  「そういう考え方もあるか?」と早川がうなづく。
  「ボケと言えば、最近ボケ老人が増えているようですね」
  高橋君がその話に割ってはいる。
  「これは、私のお袋の友達の話ですが、すっかりボケてしまって、ご飯も何も食べ
ないそうです。元気な時にビールが好きだったとかで、ビールばかり飲んで、すっか
り痩せてしまって・・・ガラガラだそうです。
  最近、その旦那が検査入院で1ヵ月入院したので、その間友達の妹さんが面倒
を見ているそうですが、姉の気晴らしにと、旦那の検査入院の見舞いに連れて行
って、帰ってくると、『お父さんはどこに行ったの?しばらく見ていないわね、どうし
たのかな?』というんだそうです。妹さんも姉の病気は分かってはいるけど、実際
のところ本当にまいっているそうです」
  聞いているみんなも他人事ではない様子である。
  「私の母の友達の旦那さんもそうだって・・・」

  今度は大木女史が話し始める。
  「その旦那さんは昼と夜が完全に逆転した生活をしているんだって・・・夜中中
108

タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ



第4話 思い出してごらん  その3 ★★★






















           

         



























































































































前のページへ 次のページへ


トップページへ戻る