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小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

な義母を起こさないよう、そっとドアを開けて入って行かなければならない。
  めったにはないが、会社で揉め事があり、ベッドに入ってもなかなか寝付かれ
ない時もある。そんな時は寝酒を飲みに階下の台所へ行き、音を立てないように
一升瓶からコップに日本酒をつぎ、大急ぎで飲んでまた2階へもどった。こんな時
はこの家の主人というより、まるで他人の家に住んでいる気持ちになる。

  まもなく、娘が2人生まれ、彼女達が物心がついた時も、お菓子や果物を出す

順番は義母からと取り決めた。子ども達もどうやら義母が家族で一番と悟ったよ
うである。たまに、義母と娘の景子の意見が違っても、早川はどちらかに味方す
るわけには行かない、双方からにらまれる。

  そんな生活が長く続いたが、同居して20年ほど経った頃から、元気で、きかな
い義母がおとなしくなってきたのである。近所を散歩してきては「こわい、こわい
(疲れた、疲れた)」と言っては居間のソファアに横になるようになった。時々、こん
こんと咳をしては、「胸が焼ける」と言って胃の薬を飲み始めたのである。
  妻の景子は夫の手前、
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  「だんだん義母もなまくらになって・・・」
  と言って取り合わない。
  そのうち、咳が出るようになって、いつものとおり義母が1人で近所の個人病院
へ行って診てもらう。しばらくして、医者から自宅に電話がかかってきた。
  「家族の方に相談がありますから、ご足労願います」と・・・

  驚いた妻の景子が早川の会社に連絡する。早川が会社を早退しタクシーで病
院に駆
けつけると、医者が義母のレントゲン写真を早川に見せ、
  「ご覧の通り、肺が真っ白です。私の所見では粟粒結核と思われます。早く治
療した方が良いと思います。私としては南区にある国立さっぽろ結核療養所をご
紹介したいのですが・・・」
  と話す。
  (粟粒結核?隔離するのか?これはたいへんだ!会社、子供の学校、近所へ
どう説明しようか?) 
  今度は早川の頭が真っ白になる。だが、早川はこの個人内科の先生の診立て
に納得がいかなかった。早川は深呼吸をして口を開く。
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  「先生、国立さっぽろ結核療養所への紹介はちょっと待ってください。私はまだ
信じられないので、知り合いの医者がいる福祉総合病院でもう一度診てもらおう
思います。ご了解してください・・・」
  先生は(このわからずや)と言う顔をしていたが、義理の息子の提案を拒否でき
ない。早川はとりあえず義母の登志子を自宅につれて帰った。当時、会社の総務

課長になっていた早川は、すぐさま会社の産業医である福祉総合病院に連絡を
取り、事情を話すと、すぐさま診てくれる事になった。早川は義母と妻の景子をタ
クシーに乗せ、福祉総合病院へ向かう。

  福祉総合病院では話がついていると見え、すぐに診療室へ案内された。早川と
景子は廊下で待つ時間がすごく長く感じた。
  「近藤さんの家族の方、お入りください」
  目の前の診療室のドアが開いて2人は呼び込まれる。
  その結果、粟粒結核ではないものの、「間質性肺炎」というもっと難しい病名を
もらい、その場で入院する事となった。
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  「間質性肺炎」とは、肺の細胞の間が肺炎を起こす病気で、悪化するばかりで
直る見込みはまずない難病の1つだった。この病気の原因にはいろいろあるが、
特定できない。したがって、ショック療法であるステロイド剤治療しかなく、進行が
止まるのは一か八か、運が良けりゃの世界だと、後から知った。
  こうして、義母登志子の看病生活が始まった。じょじょに病気が進行し、人工呼
吸と点滴の毎日となった。頼みのステロイド剤も効果がなく、そのうち幻覚を見る
ようになり、みるみるミイラのようにやせ細っていった。
  どこの病院も完全介護を売り物にしているが、身内としてはほおって置けず、妻
の景子は日中は義母の看護、夜には自宅へ戻り洗濯・炊事などの家事をし、早川
は勤務後に病院へ行って朝まで看病をした。しかし、いくら若いとは言っても夫婦
の疲労は極限に達し、2週間後には介護ヘルパーを雇うのを病院に認めてもらっ
た。それでも毎日病院へ通うのはたいへんだった。
  薬のせいか、最後には娘の顔も婿の顔も分からなくなり、あの気丈夫で元気だっ
た義母も、入院して2ヵ月後にはあの世へ行った。今にして思えば、「生前もっと優し
く接してやればよかった」と、娘の景子も婿の早川も悔やまれてならない。
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第4話 時代はまわる  その5 ★★★★★






















           

         


























































































































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