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デジカメ千夜一夜

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私のCD放浪記

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      【番外編】





●小説
 「猫踏んじゃったU」


なつかしの街角

忘れえぬ猫たち

小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

尻で車椅子が見えない。後から気付くと、息子の車と思われた大きな車は息子
が通勤で乗って行ったのか、敷地内になかった。

  あれから何年か経ったが、早川はその後小さいお婆さんも見かけない。もう亡く
なったのだろうか?さらに今回亡くなったという旦那さんなる人も見かけた事はな
かった。早川は訳が分からなかった。
  しかし、町内会の弔慰金は届けなければならない。早川は意を決して、まず無
精ひげを剃り、弔慰金と領収証を用意し、喪服を着る。
  古田さんの家に着くと、暑いのかガラス張りの防寒囲いのドアとその中の玄関
のドアが開け放たれていた。
  「こんにちわ」
  早川は外から声をかける。
  「はいっ?」
  しばらくして、あの体格の良い奥さんが顔を見せる。
  「町内会で分会長をやっている早川です」
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  奥さんは見知りの早川の顔を見て一瞬怪訝な顔をしたものの、喪服姿で用事を
理解したのか、
  「どうぞ、まだ散らかっていますが・・・」
  と早川を招き入れ、仏間に案内する。
  「お参りがたいへん遅くなりまして・・・」
  「いいえ、この度は知った人にしか知らせてなかったのですよ・・・」

  「そうですか?私は何度かお宅の前を通っていましたが、これまで旦那さんを
お見かけした事はなかったのですか゛・・・」
  「そうかも知れません、今年の春に退職して、家に戻ったとたんにすい臓がん
を発病しましてね、ほとんど病院におりましたから」
  「そうですか、ご家族の皆さんも大変でしたね・・・まずはお参りをさせていただ
きます」
  早川はそう言って、玄関の奥の仏壇間に入り、座って旦那さんの顔写真を見
る。そこには日焼けして精悍な細面の顔があった。
  (長く闘病生活をしていた顔には見えない)
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  「先ほど、『退職して家に戻られた』とおっしゃっていましたが、お勤めは札幌じ
ゃあなかったのですか?」
  「そうなんです。結婚する前からずっと内地府県を転々としていました」
  「と申しますと?」
  「勤め先が大手ゼネコンで、全国各地で道路や橋の建設の仕事をしていたの
です。ですからほとんど人気のない田舎の飯場に寝泊りしていまして・・・札幌に

帰るのは年に1.2回しかありませんでした。新婚生活も何もありません、私は彼
の両親と間もなく生まれた長男の世話に明け暮れました」 
  「大変でしたね・・・」
  「まあ、それほどでもありませんよ」
  奥さんの顔が笑っている。亭主の留守を守った、やり遂げたという主婦の誇
りみたいなものを漂わせていた。
  「人生皮肉なものですよ・・・旦那は一生懸命働いて、数年前に家を新築し、
定年後は悠々自適と思っていたら、すい臓がんになってしまって・・・進行が早く
てあっという間でした。一生懸命に働いているうちは病気にもならなかったのに
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・・・ほっとしたんですかね?」
  体格の良い、気丈夫の奥さんもこの時ばかりは気弱に見えた。

  「奥さんも気を落とさず、身体に気をつけて・・・」
  「私は、この通り大丈夫ですよ、身体は丈夫だし、何事にもくよくよしない性質
だから」
  「それがいちばんです・・・また、バラの花を見に来ますから・・・」

 「どうぞ見に来てください」

  こうして古田宅を後にした。
  (あの奥さんなら心配ないな)
  早川は帰りの道すがらそう思っていた。

  年を取ってから連れ合いに先立たれた時、夫と妻のどちらの方が先にまいる
か?それは一般的に、夫の方だと言われている。愛妻家の夫ほど数年で後を追
うと言う。もちろん、例外もあるが、ワンマン亭主ほど生きる気力が落ち、これまで
した事のない炊事・洗濯・掃除に困るようだ。
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第4話 時代はまわる  その2 ★★






















           

         



























































































































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