席していれば、歌うわけにはいかない。同僚だけでも、上司にいつ何時告げ口さ
れるか分からない。そんな理由で大ヒットとまでいかなかったのではないか。
また、一方で別な見方もある。
イギリス人で、日本で活躍しているブロードキャスターのピーター・ハカランさん
は、イロニー(皮肉)についてこう言っている。
「日本人は他人に対して優しい・・・軽い皮肉は言うものの、徹底的にやっつけた
り、けなしたりしない、ブラック・ユーモアを受け入れない。『モンティ・パイソン』や『
ミスター・ビーンズ』などのイギリスのコメディは、皮肉とイヤミ、ぎりぎりのタブーに
挑戦しており、観客もこれを受け入れている」 (2015年2月1日放送、NHK-FM、「ト
ーキング ウィズ 松尾堂 "イギリスのコメディを味わう"」)
そう言われると、古典的な「モンテイ・パイソン」はまだ見たことがないが、「ミス
ター・ビーンズ」はTVや映画で見ても、日本人にはピンとこないギャグが多い。
話は変わるが、「あんたが大将」を作詞した武田鉄矢はなぜこの歌を作ったの
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か?一説によれば、武田鉄矢は「母に捧げるバラード」がヒットした後は低迷が続
き、印税を食いつぶし、キャバレーで酔客を相手に歌ったり、妻の給料で生活した
り、夫婦で居酒屋で皿洗いをしていたと言う。
推測に過ぎないが、海援隊の代表から皿洗いまで落ちぶれた武田鉄矢は、日
銭をもらうためにいろいろな人に使われて辛酸をなめたのではないだろうか?彼
はそんな時代のうっぷんを晴らすために、開き直って、面白おかしくこの歌を作っ
たのではないだろうか?だから単に笑って済ませないような皮肉が、ほろ苦い毒
が、ちょっぴり見え隠れしているような気がする。
「おいおい、あれを見てみろよ。盆踊りが始まっても売店が焼き鳥やビールを売
っているぞ!」
古谷が商店街の売店を指差す。商店街の売店の前には、テーブルに陣取り、ビ
ールに酔いしれている客が大勢いた。
「商店街に、盆踊りや花火打ち上げの邪魔になるから、盆踊りが始まったら、飲
み物の販売をやめて、レンタルテーブルや椅子を撤去するよう、きちんと説明した
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のかなぁ?」
昨年の夏祭りで、ゴミの片づけで、東野商店街ともめた記憶のある早川が言う。
「昨年の夏祭り反省会で、『東町商店街に閉店時間を始めとしてゴミの処理など
ルールをきちんと守らせるべきだ』とみんなが言って、坂本総務部長が『分かりまし
た』と答えたはずだよ・・・」
久井理事が思い出す。
「あいつも口ばっかりで、その場限りの答弁ばかりしているのさ・・・」
この中で役員歴がいちばん長い古谷が毎度の事と笑う。
こうして、夏祭りの長い初日が終わり、翌日8月8日は午前中に売店などのテン
トを撤去し、夜の盆踊りと花火大会を終えた。9日はやぐらの撤去と公園内のゴミ
拾いだった。暑い夏で、役員たちの疲労は極限に達していたといってよい。
8月24日夜、町内会館の大広間で、夏祭りの反省会が行われた。例によって
ささやかなオードブルと酒とビールがテーブルに並んでいる。
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「夏祭り、本当にご苦労さんでした。まず最初に反省点を伺いたいと思います」
坂本総務部長が声をかける。
「せっかく焼きそばの台を増やしたものの、売れ行きがよく製造が間に合わな
いので、手伝いの人数を増やしてほしい」 と黒田分会長、続いて「焼き側は野菜
が多すぎるのではないか?」 これも館山副部長の意見である。 「とうきび係りで
すが、450本では少なすぎます。来年は600本でも売れると思います」 これは、
前橋女史の意見である。
これらの町内会直営売店の話に、坂本総務部長は、
「よく分かりました、来年の実施の際に気をつけましょう」 の一言で終わる。
この後に男性役員から厳しい意見が続く。
「指令系統がなっていない」、「チーフ会議が開かれていないため、指令がしっ
かり伝わっていない、事前にチーフ会議をするべき」、「各係りは何をするのか、マ
ニュアルを作って欲しい」、「集合時間の5分前に着いたら、作業が始まっていた。
作業開始時間を徹底して欲しい」、「ゴミ収集の人数が足りない、もっと増やすべ
きだ」、「商店街には、盆踊りが始まったら飲み物を売るのを止めて、テーブル・椅
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