「北海道弁のラジオ体操を聞いたことあります?」
小宮理事は今度は早川に話題を向ける。
「聴いた事はないからまだないんでない?」 早川が答える。
「北海道弁だったらどう言うのかな?」
小宮理事がからかうように早川の顔を見る。
そう言われて早川は真面目に考えてみるが、即座には出てこない。
「うーむ」
早川が考え込む。3人はいつしか公園のグランド脇の芝生に座り込む。
「今日も天気はいいあんばいだっしょ!」
苦し紛れの早川が引き伸ばしにかかる。
「いいねぇ、その調子、第一声はそれだな」
久井理事が調子に乗せる。久井理事の言葉に早川は、
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「そうだなぁ、次は『さあ、みんな、おだって(調子に乗って)いこう!みんな、けっ
ぱけれ(頑張れ)よ〜』じゃ、どう?」
「いいぞ、いいぞ、続いて続いて」
2人は酒も飲んでないのに調子が良い。早川はしばらく考えてから、
「ごんぼ掘らず(だだをこねず)に、しっかりやれよ〜そこの怠け者、なまら(とて
も)きもやける(腹立たしい)なぁ〜」 と、搾り出すように言う。
「お次の番だよ、お次の番だよ」
小宮理事と久井理事の2人は手拍子を打って早川をけしかける。
「これ以上は無理、無理・・・北海道弁ラジオ体操はゆるくない(簡単ではない)
よ」早川があごを出す。
「わはは、わはは」 2人が手を叩く。
3人がひとしきり笑った後、いちばん年長の久井理事が、
「北海道にはニシン漁もあったし、農地開拓もあり、先祖が全国各地から来てい
るから、北海道民といえども北海道弁が共通とは言えないかも知れないね。ここの
3人だってご先祖の出身地はみんな違うはずだよ・・・」とやおら話し出す。
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「そうですね」
早川がうなづいて北海道弁ラジオ体操の話は終わった。
公園からは帰る方向が違う2人と別れて、早川は自宅へと向かう。南公園の
左出口を出てすぐの長谷川さんの庭に奥さんがいた。年の頃なら70歳半ばか、
いつも通るたびに庭で花の手入れをしている。
「お早うございます、今年もきれいな花を咲かせてますね」
早川が声をかける。
「ありがとうございます、ところであなたは町内会の方?」
「そうですが・・・何か?」
早川は不思議に思いながら奥さんの顔を見る。
「実はね、夏休みに入ると、いつもの事で子供達の花火が夜うるさくてね、眠られ
ないんです。町内会で何とかならないかしら」 と奥さんは訴えるように話す。
「公園の入り口には、花火や犬の放し飼いや自転車の乗り入れを禁止する立て
札がありますが・・・」
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