操をやっているとある事を思い出した。第2回の理事会での事だった。
「川崎翁は辞めたんではなかったのか?」
早川は思わず声を出しそうになった。
平成23(2011)年5月11日、東山町内会の第2回理事会の席上、早川は議案
第1号「平成23年度 町内会役員名簿」を見て驚いた。南1分会長欄に川崎と書
いてあったのである。あわてて、左手後方の南1分会長席を見るとそこは空席だっ
た。
(川崎翁の後任が決まっていないって事か?) そう思った瞬間、早川の目の左
端に大林会長前会長が映る。早川の後の席は北1分会長の席である。
(大林前会長がなぜここに?すると、前の戸浦分会長は?)
早川は、町内会役員名簿をくまなく探す。すると戸浦の名前は交通部部員の中
こんな事を考えながら、早川がラジオ体操をいやいややっていると、
「早川さん、何か悩み事でもあるのかい?」
右隣の小宮理事が声をかける。
「いいや、何かいつも同じで、機械的で、もっと楽しくやれないかと思ってね」
早川が体操を続けながら答える。
「面白い体操なんてないの!」
今度は左隣の久井理事が話に割り込む。
「どうしてさ?」 小宮理事が聞く。
「だってさ、これはNHKラジオが実施していたって、いわば国営体操と同じだか
らさ、教科書が面白いわけがない・・・」
この中でいちばん年長の久井理事が分かったように解説する。
「でもさ・・・」
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小宮理事が声を出しかけて言いよどむ。
「何よ?行ってみな」
前に曲げた身体を起こした久井理事が小宮理事の方を見る。
「でもさ、今は方言丸出しの『ご当地体操』ってのが、大流行だって、こないだテ
レビでやっていたよ」 小宮理事が久井理事に言う。
「あんたは毎日テレビばっかり見ているのか?」
不意をつかれた久井理事が食ってかかる。
「毎日暇だからテレビくらいは見るでしょ?」
「俺は戦後歌謡しか見ないよ」
「やっぱり見てるんだ」
「うるさい!」 この一言とともに肝心のラジオ体操が終わった。
最初に「ラジオ体操第1 お国言葉編」を企画したのは、テイチクだった。
そのきっかけは、沖縄県新川地区で使われていた方言を継承しようとして作ら
れたスマニム(島言葉)のラジオ体操だったとか。「ウデイュ・マイカラ・ウヤァービ
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カイアギイ・ヌバショーリ・ハイ(腕を前から上げて大きく背伸びの運動)」という言葉
のギャップから、「全国の方言を使ったラジオ体操を作ったら面白いかも」と考案さ
れたという。
テイチクは続いて、歌手麻生かおりが歌う津軽弁、パックンの英語版などを製作
し、2010年から配信している。その後、ギニア語、イタリア語、関西弁、山形弁など
の8曲を完成し、CDに収録している。
一方、日本コロンビアも、東日本大震災で被災した宮城県石巻市で、地域コミュ
ニティー再生のために行われている方言の「おらほのラジオ体操」がきっかけで、
「お国言葉で作れば地域の連帯が生まれる」と全国11パターンのCDを製作し発
売している。
また、キャンパスレコードは、着うた好評配信中の、沖縄ちゅらサウンズオリジ
ナル、「ラジオ体操第一(うちなぁぐち)」のCDを2012年5月2日に発売した。
(東京スポーツ2012/09/19、デイリースポーツ2013/07/20、日経トレンディネット
2013/10/24、沖縄音楽携帯サービス2012/05/03)
後年(2014年)、山形県甲斐市は市制10周年を記念し、「ラジオ体操の街、甲斐
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