　グランドの前方には卓球台ほどの大きな演技台が置かれ、白いトレパン姿の先
生がすでに立っている。その両側に各学年の代表が６人並んでいる。集まった生
徒は全校２００人ほどで、男は短パン、女はスカート、みんな申し合わせたように
ゴム短靴をはいている。
　三根子と四郎が走っているうちに、６時３０分になったと見え、木造校舎の正面
のスピーカーから、「ラジオ体操の歌」が流れてくる。ラジオの声に合わせてみん
なが歌う。三根子と四郎は「ラジオ体操の歌」が終わる前に、かろうじて後列の最
後に並んだものの、まだ息が弾んでいる。そのうち歌が終わり、「ラジオ体操第一、
始めっ」とアナウンサーの掛け声とともに、「タンタカターン、タンタカターン」とオル
ガンの伴奏が始まる。

　先生の元気な動きに合わせ、生徒達の手足がいっせいに動き始める。高学年
の生徒は上手いが、低学年になると下手な生徒も混ざっている。みんな何を考え
ているのか、てんでばらばらの方向を見て体操している。１年生の中には座り込ん
で、グランドに砂絵を描いている子もいる。明るく晴れた大空の遠くに天塩山脈がく
っきりとそびえ、その前をとんびがくるりと飛んでいた。
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　四郎の苦手はラジオ体操ばかりではない、体育はまったくの運動音痴であった。
運動会の徒競走では上位３位までに一度も入った事はない、ドッジボールは相手

のボールを交わせない、ソフトボールで高い玉を投げられると交わせず眼鏡に当
たる始末である。

　だから、父兄が参観する運動会は朝から憂鬱であった。唯一の例外は中学一年
生の時に人間ピラミッドのポールに選ばれたときであった。何のことはない、もやし
のようにひょろひょろで軽い、そして背が高いからてっぺんに立つと見栄えがする、
それだけのことで選ばれたのに違いない。ぐらぐらゆれる屈強な男子達の肩を必
死になってよじのぼり、最後に両手を広げる、会場から拍手が沸きあがる。四郎が

体育や運動会でほめられたのはこの時だけであった。高台にある中学校のグラン
ドから晴れた日本海を眺めると、気持ちがすっきりとして、何ともいえない優越感
が沸いた。

　早川が新年度の町内会費の徴収書類を整理して、新しい班長に届けているう
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ちに、第３回の理事会が６月８日に開催される。
　この日の議題は、「町内愛好会の助成金」、「回覧板配布予定日」、「町内会研

修旅行」、「ラジオ体操」、「夏祭り」、「交通事故追放総決起大会の開催」、「高齢
者見回り活動拡大」などなど盛りだくさんである。新体制による各部がようやく動

き始めた結果でもある。
　町内会活動を２年間経験し、３年目を迎えていた早川は、議題を見るだけでそ
の内容や自分との係わり合いをすぐに理解できるようになっていた。

　「町内会愛好会」は、パークゴルフ・ゴルフ・ボウリング・卓球・囲碁・太極拳・麻
雀の７つあり、会員数は３４９人である。町内会は会員１人当たり年間５００円の
助成金、総額で１８６，０００円を支出している。

　「町内会研修旅行」は、町内会員を対象とした日帰りバスツアーで、今年は７月
１５日に秩父別～増毛の鰊御殿を巡る計画で、参加費２，５００円である。

　今年の「夏祭り実行計画」は、８月７日と８日、例年通り東野グリーン公園で行

われ、主催は東野町内会と東山商店街、共催は子ども会・小中学校・おやじの会

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としている。皮切りに地元東野消防署による消防屈折車試乗会、続いて太極拳・
歌謡ショーなどのいつものイベント、焼きそば・おでんなどの出店、盆踊り、花火
大会である。

　もめたのは、滝川福祉部長が提案する「高齢者見回り活動拡大(案)」である。
これまで７５歳以上の独居世帯を対象に、分会長と民生児童委員が見回りし、緊
急連絡カードを作成してきたが、これを一挙に６５歳以上の独居世帯に広げよう
という提案である。その対象者は７５０名にもおよび、「多い分会長は６４名も担当
しなければならず、負担が多すぎる」という理由で、昨年同様、黒田分会長、中田
分会長などが反対し、提案は暗礁に乗り上げた。この提案で、町内会役員の承諾
を取り付け、６月２４日に全分会長と民生児童委員との打ち合わせ会議をもくろん
でいた滝川福祉部長は、その会議を取り消すこととなった。
　
　　提案の最後になったのは「ラジオ体操」である。かつて大林元会長から早川に
打診があった体育部長は新人の細川理事になっていた。体育部長は「回覧の文
案どおり、今年も７月２６日から８月２０日まで、恒例のラジオ体操が始まります。
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