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忘れえぬ猫たち

小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

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イタリアかけある記

    

  「四郎!早く起きないとラジオ体操に遅れるぞ!」

  と、早川四郎は姉の三根子に起こされる。四郎は苫前小学校3年生、姉の三根
子は6年生である。子供4人が寝ている6畳間の古い柱時計が5時50分を指して
いた。浜から会場の苫前小学校までは遠い、子供の足でゆうに30分はかかる。
  「まだ早いよ」
  四郎はまだ眠いのか、布団の中に顔をうずめたままである。
  「何もそもそ言っているんだ」と四郎は姉にかけ布団をはがされる。四郎はべそ
をかいている。苫前の漁師の朝は早い。今日は晴れて日本海の波が穏やかだか
ら父親と母親はすでに漁に出かけていた。

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  末っ子の四郎は幼い頃から甘えん坊で、毎晩母親の家事が終わるまで眠いの
をこらえ起きていた。当然朝早くは起きれない、寝起きが
悪くいつもぐずぐずして
いた。

  「こんな事では漁師にはなれない」 父親の長治はそんな四郎の生活を見てため
息をつく。長治の子供は、上が3人の娘、
ようやく生まれた男の子が四郎だった。
  父親の長治が「ようやく後継ぎ出来る」と喜んだのも束の間、末っ子の四郎は母
親と3人の娘に可愛がられ、父親の期待を他所に軟弱な子供になっていった。

  苫前町は、日本海沿岸に細長く位置する留萌支庁のほぼ中央、留萌市から約
50km北に位置する。今でこそ、風力発電の町として全国的に知られるようになっ
たが、かつてはニシン漁で栄え、人口も1955(昭和30)年には1万2,000人弱
を数えた。その後ニシンの激減に伴い、人口も徐々に減って、2010(平成22)年
には最盛期の3分の1の3,657人となっている。
  留萌市から苫前町へ行くには昔はJRを利用できた。元の羽幌線で留萌駅から
約1時間で行けたのである。羽幌線は、羽幌町の炭鉱開発と運炭、そしてニシン
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の輸送を主な目的として1958(昭和33)に全線(留萌-幌延)開通したが、炭鉱の
閉山とニシン漁の不振、沿線人口の減少によって輸送量が減り、1987(昭和62)
年に全線廃止となり、今は沿岸路線バスが走っている


  ニシン漁は江戸時代末期に松前・江差から始まり、時代を経るにつれ寿都・余市・
小樽と北上し、増毛・留萌・苫前と広がっていった。苫前町の前身の苫前村は、18

80(明治23)年に周辺の2つの村と合併し発足した。この頃にはニシン漁関係者を
中心として相当数の入植者がいたと思われる。当時の北海道のニシン漁は、越後
衆・佐渡衆の巨大なネットワークに支配され、春ニシン漁の都度、東北各地から大
勢のやん衆を集めていた。
     (HP「ニシン漁の歴史」、「苫前町」、「苫前町の佐渡衆について」、「羽幌線」)

  青森県出身の早川家の祖父留男もその1人で、明治30年頃から苫前に出入り
していたという。ニシン漁の規模が大きくなるにつれ、漁の準備や資材の仕込み、
収獲後の加工などの仕事が増えてくる。やん衆として雇われ続けた祖父留男は、
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当初から苫前の産業を仕切っていた佐渡衆長島家の親方に働き振りを認められ、

その後使用人として苫前に居住するようになったと言う。
  2代目の早川長治は、祖父留男の仕事を手伝いながら、やん衆としても漁に出
ていたが、ニシンは1954(昭和29)年に激減し、仕事がなくなり、磯舟を調達し、

シン以外の漁で細々と生計を立てることとなった。
  四郎の父親の長治は末っ子の四郎が育つにつれ「年々魚は減ってきている。毎
日、カレイやイカやタコをいくら獲っていても稼ぎは知れている。これでは四郎に漁
師を継がしても飯を食えない、代々続く漁師
も俺の代で終わりか?」と思うようにな
っていた。

  「待ってよ、姉ちゃん」  四郎は短パンにシャツをひっかけながら、ゴム短靴をは
く。三女の三根子は男勝りである、後から必死で追いかける四郎を尻目にぐいぐい
と先を行く。苫前小学校は高台にある。海に近い四郎の自宅からは坂道が続く。四
郎はぜいぜい肩で息を吸いながら姉の後を追う。

  「四郎はまた遅刻だよ、先生」  悪がきの声が先方から聞こえる。
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第2話 ラジオ体操  その1 ★






















           

         

















































































































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