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イタリアかけある記
  「大阪ですか?大阪のどこですか?」
  と早川も訊ねる。
  「昭和42年に合併して出来た今の東大阪市さ。町工場が8,000もあってさ、
昔から金型や板金の加工技術で有名なんだよ。歯ブラシからロケットまで作れな
いものはないとさえ言われているのさ。今は不景気で今一と聞いているがね、当
時はどこの工場も夜まで煌々と電気がついていて、本当に活気があったよ。
  私の家は島松で、農家をやってたんだが、貧乏でね・・・昭和23年に中学校を
優秀な成績で卒業したんだが、
高校には行けず、3年ほど家の手伝いをしてから、
東大阪市の町工場に就職したんだ。厳密に言うと集団就職ではなかったけれども、
金の卵扱いされたよ・・・」
  と、久井理事が当時を懐かしむよう遠くを見やる。
  (なるほど、そうすると年は私より12歳上の80歳か、それにしては、パソコンを
自由に操り、理事会での説明文書も良くまとまっている)
  と早川は感心していた。
  「苦労したんですね・・・」
  と早川が久井理事の顔を見る。
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  「そうだねぇ、小物の金型を作る工場だったが、親方は私を早く一人前にしよう
と、厳しく仕込んでくれたよ。しかし、工場兼住宅の住み込みで、何事も家族扱い
で親切にしてくれたよ。2年後には定時制高校まで通わせてくれたし・・・今考える
といい時代だったよ」
  「休みの日には何をしていたの?」
  久井理事より2、3歳年下と思われる小宮が訊ねる。
  「ど田舎から大都会へ出てきたもんだから、見るも聞くも何もかも珍しくてね。休
みになると、デパート、公園、名所史跡、あちこちでかけたもんさ。本屋で『少年倶
楽部』、『冒険王』、『漫画少年』、『少年画報』などを立ち読みしたり、貸し本屋でマ
ンガ本を借りてきたり・・・小遣いが溜まると、たまに映画を見に行ったよ、『笛吹き
童子』、『バンビ』、『黄色いリボン』、『禁じられた遊び』、『七人の侍』、『ゴジラ』、『ロ
ーマの休日』などね、封切りはとても見られず、旧作専門だったけれども・・・アン
パン1個10円の時代で、腹がすくとアンパンかかけうどんを食べて帰ってきたよ」
  ふだんドモリがちな久井理事も酒のせいで口が滑らかである。ところどころに
関西なまりが出る。
  「昭和30年代の町並みは、映画『オールウェイズ 三丁目の夕日』にも出てい
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ましたね、セピア色のよき時代が目に浮かびますよ」
  と早川がその映画を思い出す。
  「歌謡曲といえば、『高原列車は行く』、『お富さん』、『岸壁の母』、『この世の花』
『月がとっても青いから』、『若いお巡りさん』、『おんな船頭唄』、『チャンチキおけ
さ』、『有楽町で逢いましょう』、『おーい中村君』、『南国土佐を後にして』『黒い花び
ら』、『潮来笠』などなど・・・数え上げれば切がない」
  小宮がラジオで聞いていた当時の流行歌を並べたてる。
  「小宮さん、何か大切な一曲を忘れていないか?」
  久井理事がギロリと目をむく。
  「何か?」
  急に言われた小宮は何を忘れたか思い出せない。
  「あれだよ、あれ、『ああ上野駅』だよ」
  「そうだ、『ああ上野駅』があったか?」
  小宮がニヤリと笑う。
  「もう、ボケてんでないかい?」
  「ちょっと抜けただけだよ」
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  2人の掛け合い漫才に早川が笑う。
  「まあまあ、もう帰りましょうか?」
  と早川の声で3人は帰路に着く。

  ゆるい坂道を登っていると、2人はどちらからともなく歌い始めた。
  ♭ どこかに故郷の 香をのせて
     入る列車の なつかしさ

     上野は俺らの 心の駅だ

     くじけちゃならない 人生が

     あの日ここから はじまった〜
 

  早川は2人の歌を聴きながら、
  「分会長の任期は後2年間か?これは長いぞ・・・」
  と思わず呟いていた。
 

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第1話 ああ上野駅  その6 ★★★★★★






















           

         
































































































































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