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私のCD放浪記

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      【番外編】





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忘れえぬ猫たち

小説「猫踏んじゃった」
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー


イタリアかけある記

  「集団就職を見習え?」
  高木分会長が問いかける。
  「町内会役員になるのは『もう80歳になるから、嫌だ、嫌だ』って言うのに、『君
が入らなければ困る』
とうまいこと言われて、連れてこられて、中に入ったら説明
も何もしない、『見よう
見まねで働け』ってさ、そうだろう?だからさ、昔の集団就職
の時のやり方を見習えってのさ。高度成長期の中卒の集団就職者は引く手あま
たで『金の卵』と言われたもんさ。町工場や商店はようやく来てくれた金の卵に逃
げられないように、親切にして、手取り足取り教えたんものだよ」
  久井理事がそう言って紙コップの日本酒を飲み干す。
  「そういう意味か、よく分かった。そのとおりだよね、それでなくとも町内会役員の
なり手がいないんだから・・・」

  高木分会長が相槌を打つ。

  そこへ宮城会長がビール瓶片手にやってくる。
  「みなさん、よろしくお願いします」
  そう言いながら各人にビールを注ぐ。
013


  「俺は日本酒 ! 」
  久井理事は会長に日本酒を所望し、
  「会長、しっかり頼むよ」と、会長の尻をぽんとたたく。
  「分かった、分かった、それではごゆっくり・・・」
  宮城会長は苦笑いしてそそくさと他のテーブルへ向かう。

  その一部始終を遠くで見ていた大沢新副会長がそっとやってきた。テーブルを回
って祝い酒をもらったのか、顔が少し赤い。

  「おめでとうございます、期待していますよ」
  気が付いた早川を始めとしてみんなが声をかける。

  大沢新副会長は、これまで理事会では早川達と同じ後方の分会長席に座って
いた。大沢分
会長は執行部がいい加減で無責任な答弁をしていると、その矛盾を
突き、軌道修正しようと何度でも議論していた。大沢の大きな体格で、ひな壇の執
行部に立ち向かう姿は、まるで大敵と戦う熊のようで、早川はひそかに「北海のヒ
グマ」と呼んでいた。
  「いやいや、そうかんたんにはいかんよ・・・」
014


  大沢副会長は明らかに周囲の目と耳を気にしていた。一瞬の間をおいて・・・
  「しかし、みなさんよろしく頼みます」
  と大沢は照れくさそうに、みんなに酒を注ぐ。
  大沢副会長はこの時点では冷静に今後の執行部の状況を予測していたのかも
しれない。新三役は大沢副会長以外は旧勢力で、大沢副会長1人では執行部の
やり方は何も変わらないと・・・
 
  そのうち、退任する川崎翁こと川崎分会長が杉村分会長の席に寄ってきた。
  「これはこれは、川崎分会長」
  杉村分会長が立ち上がる。彼も「川崎教」を信仰する1人だった。
  「長い間ご苦労様でした。ご指導ありがとうございました」
との謝意に、
  「いや、いや・・・」

  川崎翁はそれ以上言わない。
  早川は、2年間同じ分会長席に座り、川崎翁が発言する時は一言も聞き漏らす
まいと耳を済ませ、その真意を考えていたものだった。一対一で話した事はなかっ
015


たけれど、思わず立ち上がって、
  「たった一人の良識人がいなくなって、とてもさびしい気持ちです・・・どうかお元
気で」とお礼を言う。
  しかし、川崎翁は何も言わず、透徹した目で早川を見て去っていく。その後を
目で追いながら、杉村分会長がしみじみと語る。
  「老兵は死なず、去り行くのみか・・・」
  この言葉を聴いた久井理事理事が、
  「なるほどねぇ」
  と杉村分会長の言葉に感心する。 
  「そういうあんたは生臭さタコ坊主」同じ分会の小宮理事が冷やかす。
  「生臭さタコ坊主で悪かったな、こいつ」
  久井理事が左の小宮理事のわき腹をひじで小突く。
  「痛っ」
  小宮理事が大げさに悲鳴を上げる。
  「話が落ちたところで、そろそろ帰りますか?」
  早川が2人に声をかける。久井理事と小宮理事の帰り道は途中まで早川と一緒

016

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第1話 ああ上野駅  その4 ★★★★






















           

         

































































































































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