ではないのか？予備選で優勢だからとは言いながら、まだ決選投票前だぞ・・・し
かし、そんな事を知らないわけがない。とすると、大林会長は予備選でいちばん多
く票を獲得していたから、『会長留任は間違いない』と踏んで、さらに票を伸ばそう
と考えたのか、反主流派の１人にニンジンをぶら下げ、食いつけば反主流派を取
り込めると踏んだのか？どちらにしても彼らのいつもの狡猾なやり方だ)
　と、早川は思った。この事は誰も知らない。
　
　この後の３月９日の決選投票では、最初に会長選挙が行われ、大林会長再選

確実の大方の予想を覆して、宮城元副会長が圧倒的多数で選出された。新副会
長には大沢元分会長と北村研修部長が選出、玉置副会長は留任、総務部長は
坂本留任と、新三役が決定した。それは、辞退や手続き的な欠陥など、予期せぬ
出来事が噴出し、あれこれすったもんだした挙句の結果でもあった。
　それにしても早川には合点がいかない。
　 (この期に及んで、宮城副会長は何故会長就任を拒んだのか？事前に大林会
長と宮城副会長との間に密約があったのか？それとも、宮城副会長が会長を受
けたら、その後の理事会運営をことごとく邪魔されると踏んだのか？)
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　早川にはいろいろなケースを想像した。早川の危惧は、２年後の役員改選でも
再燃することとなる。

　さて、話は早川と高木が無駄話をしていた３月３０日の第１回臨時理事会にも

どる。この日の議題は、４月２４日の定期総会に付議する総会議案の審議だった

が、先の新三役決選投票の余韻を引きずってか、議論が百出し結論が出ず、４
月７日に再び臨時理事会が召集される事となった。

　第２回の臨時理事会では、総会議案については、事業計画から町内会員に関

係のない役員の共済加入の項目を取り消すこととし、前回の臨時理事会終了後
に坂本総務部長から提案された東日本大震災義捐金調達方法については、班
長が集めるには負担が大きすぎるとして、結局、町内会館玄関内に募金箱を設
置することで決着した。

　４月に入ると、分会長の仕事は、会社や学校と同じでとても忙しい。
　例えば、１年交代が慣行となっている班長の選任、町内会員の定期総会の出
欠確認、胃がん・大腸がん検診の取りまとめ、班長の業務上災害を補償する共済
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加入の申し込み、などなど・・・
　早川がこれらのふくそうする仕事を片付けているうちに、いつの間にか４月２４
日、定期総会の当日となっていた。

　定期総会の開催は午後１時で、理事の集合時間は午前１１時だった。早川が
町内会館大ホールホールに入ると、すでに舞台正面には「平成２３年度定期総
会」と書かれた横長の紙が貼られており、机と椅子の配置もほとんど終わってい
た。相変わらず暇な老人達は集合時間よりかなり早く来て設置してしまったよう

だ。
　「これなら何も早く集合しなくても良いのに・・・」早川が独り言を言う。
　「あい変わらず時間を守らない人達だ」
　との声に早川が振り返ると高木分会長がいた。
　「それに総務部員もいるんだから、これだけの準備なら人手も３分の１いれば
間に合うのに・・・残り３分の２は受付もあるから、開会の３０分前集合で十分間
に合うさ」と、早川も続ける。
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　「おにぎりを食べたら、１２時３０分まで何もすることがないよ」
高木が口を尖らす。
　しかし、２人が心配するまでもない。１２時を過ぎると、杖を突いた、よたよた歩
きの爺婆がぽつりぽつりとやってきた。靴を脱ぐ時に転ばないよう、近くの役員が
寄り添い、はいていた靴をビニール袋に入れて持たせる。そして受付へ案内し、
分会名と名前を言ってもらい、会員席へと案内する。

　「真面目に参加してくれるのはありがたいが、転んで怪我でもしたらどうするの
か？」遠くから見ていた早川は気が気でない。

　こうして始まった総会は、大林会長会長以下旧三役が仕切り、事業報告、事業
計画を順次上程してゆく。会員の質問は、暮らしを反映し、夏祭りと盆踊りについ
ては賛否両論、ゴミ収集については出す人に曜日や種類のルールを守らせて欲
しいという要望、除雪や排雪についてはていねいにという要望が多く出た。旧三
役は回答を坂本総務部長に任せ切りでほとんど答弁しない。坂本総務部長の答
弁は責任を負わないようのらりくらりとして、関係官庁に連絡するとの一点張りで
ある。
　最後に、「役員改選承認の件」が提示され、賛成多数で承認された。新会長の
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