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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  神田は要領よく立川理事長にお願いをする。
 「分りました、お安い御用です、花輪は早速手配させましょう」
 「ありがとうございます、助かりました」
  神田は懸案事項が一気に片付きこれで一安心と蓮華堂不動産ビルを出る。

  こうしてすったもんだの末、問題の2011年4月1日がやって来た。
  神田は準備万端で祝賀会の受付に立つ。受付は黒川猫じゃら小路商店街振興
組合事務局長と金森支配人である。
  参会者は立川理事長、高橋メンズ・ジーンズ社長、佐藤ちょん月食堂若旦那など
の振興組合関係者と高木まり子、半井嬢、北山修三などなど顔見知りの客ばかりで
ある。
  開会の10分前、午後2時20分には予定された30人ほどの客が受付を済ませ席
に着いたが、肝心の主賓木枯社長が姿を見せない。
  気になった神田が扉の外へ出て木枯の自宅へ携帯で電話をかける。
 「木枯先輩の奥さんですか?後輩の神田です」
 「神田さん?木枯がいつもご迷惑をかけてごめんなさい」
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  電話の向こうでは木枯の奥さんが神田にしきりに謝っている。神田の変な様子を
傍らで見ていた立川理事長は一瞬にして異変に気づきそっと席を立って扉の外へ
出る。そして神田に電話を代わるよう合図する。
 「電話の相手は奥さんです」
  と神田は立川理事長に携帯を渡す。
 「奥さん?立川です、木枯君を出して下さい」
  木枯がようやく電話に出て立川に何かを言っている。そのうちに温厚で知られる
立川理事長の顔が険しくなり声も大きくなってくる。しばらくして、
 「君の言う事はとりあえず分った。しかし忙しい時に時間を割いて集まってくれたお
客さんをどうするんだ?とにかくすぐ出ていらっしゃい、それまで私が何とかつないで
おくから・・・・・・」
  と言って電話を切る。心配している神田に立川は、
 「何でもない彼らしい話さ、彼は間もなくやってくるよ。それまで何とか開会を遅ら
せてください」と神田を落ち着かせる。

  今日の午前11時、木枯は指定されたとおりさっぽろ市役所の経済振興部長を訪
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ねていた。
 「木枯さん、良くいらっしゃいました。私を覚えていますか?山田です」
 (山田ならどこにでもいるぞ)
  と思いながらも木枯はどこかで見かけた顔だと認識していた。しかしそう言われて
もにわかには思い出せない。
 「4年前、教育委員会教育推進課にいた山田公僕です」
 「ああ?」
  と木枯は情けない声を上げる。
  木枯はようやく思い出した。2007年9月、猫じゃら工房は小学生高学年を対象と
してポケットモンスターゲーム・チャンピオン大会を実施した。猫じゃら小路6丁目は
参加する小学生とそれを見に来る客でいっぱいになり、通行もままならない賑わいと
なった。
  当然、新聞テレビの格好の話題となり大々的に取り上げられたから、教育委員会
に真面目な親から「この大会は子供の教育上好ましくない」という苦情が殺到し、主
催の責任者である木枯が教育委員会に召集された。
  その時始末書を書くよう勧められ、木枯は「市役所の職員は真面目に仕事してい
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ない」と反撃し食って掛かったのが山田公僕班長だった。
  木枯が自分の顔を思い出した、と見た山田経済振興部長はにやにやと笑ってい
る。市民栄誉賞を授与されると勇んでやって来た木枯の顔がだんだん蒼白となって
くる。
 「木枯さん、今日は何日ですか?」
 「4月1日です」
 「4月1日は何の日ですか?」
 「エイプリル・フール?」
  話がここにいたっても木枯は頭が混乱して何が何だか分らない。
 「市民栄誉賞はエイプリル・フールなんですよ。私はね4年前にあなたから受けた
屈辱を今でも忘れられないのですよ。公務員だって一生懸命仕事をしている者はい
るんです。私はあなたにいつかお返しをしようと今日の事を思いつき、そして実行し
たんですよ。どうか私の心情をご理解いただきたい・・・・・・本日はお忙しいところお
出でいただきありがとうございます。誠にご苦労様でした」
  山田経済振興部長の部下達は前からこの計画に係わっていたとみえ、誰一人木
枯に寄って来ない。
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第17話 市民栄誉賞  その5 ★★★★★






















           

         




































































































































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