ら、ぷいっと横向いて帰って行ったよ」
「それは困りましたね」
と言いながらも金森はトラブルの行方を楽しんでいる。
「あの人の交際範囲は広いから受賞パーティを無料にすると何ほどの数の客が来
るか分らないよ。社交ダンスのババアや囲碁クラブのジジイがたくさん来るよ、そうい
う意味で5,000円くらいの会費制にした方が人数が制限されて良いと思うんだ。会
場の関係もあるからね・・・・・・」
と神田はあれこれと頭を使っている。
「それで祝賀パーティはいつにするの?」
金森は自分の仕事を忘れている。
「それが4月1日の午後にしてくれと言うんだ」
「4月1日、変な日だね?」
「4月1日の午前11時にさっぽろ市の経済振興部長から表彰状を受け取るんだっ
て・・・・・・それで祝賀パーティはその日の午後にしてくれと言うんだ」
「4月1日なら市役所だって忙しいんじゃない?」
金森が疑問をはさむ。
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「そうなんだよ、どうもストンと落ちない話さ、でも本人はすっかりその気になってい
るからこちらもそのつもりで準備をしなきゃ」
神田がため息をつく。
「まずは案内をどこまでにするか?ですね」
「それが大問題さ、この猫じゃら小路商店街振興組合の関係者に絞った方が受賞
の趣旨にかなうと思うんだが・・・・・・」
「当然私も入りますね?」
「もちろんだが、半井さんのようなボランティアをどうするか?頭が痛いよ」
「学生さんは止めて社会人だけにしたら?」
「そうするしかないよね」
神田は金森支配人と相談しているうちに祝賀パーティの輪郭が見えてきた。
「いろいろありがとう。忙しいのに仕事を中断させてしまって」
「いいえ、お安い御用ですよ。また何かあったらご相談してください」
金森支配人はにこにことして帰っていった。
数日後、神田は猫じゃら小路商店街振興組合の立川理事長を訪ねる。木枯の市
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民栄誉賞受賞をお伝えするとともに祝賀パーティのあり方について相談するためで
ある。
「良く来てくれました。話は本人から聞いています。しかし、余談ですが、同じような
内容なら間宮さんも対象になってもおかしくないのですが・・・・・・」
「間宮さん?」
神田が問い返す。
「間宮さんは2006年から昨年まで毎年5年間、猫じゃら小路商店街再生のため
のフォーラムを開いてくださった方です。彼は新しい商業施設や医療機関や図書館
などの公共施設、そして高層住宅などを集めて活性化しようと提案しています。私
共商店街にはありがたい話で大きな刺激となっています。店舗設計や施工を生業
にしている社長さんですが、子供の頃猫じゃら小路商店街の近くで育ったので猫じ
ゃら小路商店街の活性化に一肌脱ごうと思い立ったそうです。まったく自己負担で
活動していましたから頭が下がりますよ」 (参考資料:2010.11.13 北海道新聞)
「そうでしたか?不勉強で知りませんでした」
「関係者相手の地味な活動でしたからね、無理もありません。ま、この件はさてお
いて・・・・・・市民栄誉賞の受賞は木枯本人も至極喜んでいるし、理事長の私として
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もたいへんありがたい話です。またまたマスコミの話題になりますからね、何でも相
談に乗りますよ、何でもおっしゃってください」
木枯の同級生でもある立川理事長はわが事のようにとてもご喜んでいる。神田と
しても受賞が腑に落ちないとは口に出せない。
「ありがとうございます。祝賀パーティの開催は4月1日午後2時30分からとし、サ
ッポロジャガービアホールを2時間貸し切って5,000円の会費制で行おうと考えて
います。本人はグランドホテルを希望していますが・・・・・・」
「グランドホテル?」
立川理事長は木枯の性格ならさもありなんと苦笑する。
「しかし、私はこの受賞は猫じゃら小路商店街があっての受賞ですからこの商店
街でぜひやりたいと考えています」
「私の顔も立てていただいて助かるよ」
「祝賀パーティについてはお願いがいくつかあります。案内の発起人に理事長のお
名前をお借りしたい事、案内は猫じゃら小路商店街振興組合の関係者にとどめる事、
会場に理事長名の花輪を飾っていただきたい事、それに当日祝辞をお願いしたい
事です」
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