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忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  金森がポケットからUSBを取り出して見せる。
 「そんな小さい物に何百枚も入るのか?」
  木枯は目を丸くする。
 「そう、動画も何時間も記録できるんです。この通り小さいからどこへでも持ち運べ
るんです」
  金森はUSBをポケットに戻す。
 「それで現職の海上保安官が尖閣諸島の中国漁船衝突ビデオを持ち出したのか
?」
  木枯はようやく中国漁船衝突ビデオの事を思い出したようである。
 「そう、小さくて大量のデータが記録できるんですが、便利になった分かんたんに持
ち出せたり紛失したりするようになったんです」

  9月7日に尖閣諸島で中国漁船が海上保安船に衝突して以来、日本政府の対応
は右往左往し世界中のひんしゅくを買っているところに、今度は海上保安官がその
衝突ビデオをUSBにコピーして持ち出し、11月4日ユーチューブに投稿し、世界中
の人達が映像を見る事となった。
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  この事件後、この映像は国家秘密に属するのか、属するとしたらそれりなりの保管
管理をしていたのか、国家公務員の守秘義務違反になるのか、結論が出せぬまま迷
走し、その後の補正予算審議に重大な支障を来たしていた。

 「本当に今の政府には困ったもんだよ・・・・・・そうだ、まり子の顔でも見てくるか?」
  木枯の思考回路はくるくる変わる。木枯は2人をさておいてさっさと隣のまり子の
朝日のあたる家に行ってしまった。
 「神田さん、木枯社長はデジタルとは何か分ったんでしょうか?」
  金森が神田に訊ねると、
 「さあ?分っていないと思うよ」
  と神田は事も無げに言う。

 「まり子、今、猫じゃら工房へ行って来たけど懐かしい物がたくさんあったな?」
 「あら、木枯社長、お珍しい・・・・・・そうなの、みなさんのお陰でたくさん集まってお
客さんにも喜んでもらっているわ。社長の事務所もすっかり占領してしまって・・・・・・」
 「あそこは神田が1人座れるところがあればいいのさ」
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 「本当に皆さんのお世話になって・・・・・・」
  まり子はコーヒーを出す準備を始める。
 「ところでまり子の家には痔出じテレビがあるんだろう?」
 「痔出じテレビ?地デジテレビでしょう?」
  とまり子が笑い出す。
 「そうか?ジジイの中には今でもそう言っている奴がいるよ。本当にいぼ痔なのかも
しれんな・・・・・・」
 「馬鹿な事ばっかり言って・・・・・・私の家では母の目が遠くなったから比較的早く大
きな地デジテレビを買ったわ」
 「ところが、忘年会に出てみるとまだ買ってない奴がいるんだ。何時だって何だって
石橋を叩いても買わない奴がいるけれど・・・・・・たまげたね」
 「エコポイントも12月1日以降減っていくから急がないとね」
  まり子が買っていない年寄りを心配する。
 「俺の家では見栄を張って早々に買い換えたが、ボタンが一杯あって操作が分らな
くて大変だったぞ。電気屋がいっぺんくらい説明してくれたって年寄りにはかんたんに
覚えられるものか?説明書を見ても分厚いのが何冊もあって読む気にもならん。息
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子が来た時何度も教えてもらってようやく覚えたよ」
  木枯が買った時の様子を話して聞かせる。
 「私の家ではDVDの録画機も同時に買ったけど、この操作がまたとてつもなく難し
いのよ、いっそ返品したくなったわ。しかし何ヶ月もかかってようやく覚えたら今度は
ブルーレイが主流だって、頭に来たわ」
  まり子も自分の体験談を話す。
 「デジタルかなんか知らないが、家の中の家電という家電にはみんなタイマーやブ
ザーがついていて、あっちでチリチリこっちでチリチリ鳴って、耳の遠い年寄りにはど
れが鳴っているのか分らないんだ、困っちゃうよ。
  洗濯機と掃除機を同時に使おうものなら、夫婦の会話も電話も玄関のチャイムも
聞こえないほどの騒音だ。年寄りはますます耳が遠くなる。本当に便利なのだろうか
?逆に不便になっているんじゃないか?」
  木枯は憤懣やるかたない様子で話す。
 「確かに技術の進歩にはそういうところがありますよね。しかし、携帯電話はとても
便利だと思いますけど・・・・・・」
  とのまり子の言葉に、
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第17話 市民栄誉賞  その2 ★★






















           

         



































































































































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