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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

    
 「なるほど、これはまるで昭和博物館だ」
  猫じゃら工房のドアを開けるなり、木枯社長が驚きの声を上げる。
 「これは木枯社長、しばらくお見えにならないので入院でもしていたのかと思いまし
たよ」
  神田がびっくりして振り返る。
 「この頑健な身体の持ち主が入院なんかするかい、忘年会で忙しかっただけだよ」
  仏壇屋蓮華堂に入って来た木枯社長は寒いと見えダウンコートを深々と着て、ロ
シア人のような大きな黒い毛糸の帽子をかぶっていた。2010年も12月に入って
いた。久し振りに現れた木枯を歓迎すべく金森支配人も後から入ってくる。

 「木枯社長、だけどどうしてこの事をご存知で?」
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  神田が訊ねる。  
 「こないださっぽろ南高校の忘年会があってさ、立川が朝日のあたる家と別館の事
をとうとうとしゃべってやんの、俺はすっかり恥をかいてしまったよ」
 「それは仕方がないでしょう?社長が顔を見せないから・・・・・・」

 「五月蝿い、顔を出さなくとも報告するのが部下の務めだろう?」
  そう言いながら木枯はひとつひとつ見て回る。
 「俺の机の上まで並べているのか?」
  木枯は多少むっとした顔をする。一通り見てから、
 「神田、ここにない物があるぞ」
 「何です?」
 「赤紙さ」
 「赤紙?さすがにそれはありません」
 「そうだろう?」
  木枯は嬉しそうに笑う。
 「赤紙ってなあに?」
  そこへ半井嬢が木枯のお茶を持ってやってくる。
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 「おっ、半井さんいつも気が利くね。赤紙か?戦争に国民を召集するため旧日本軍
が出した令状さ、赤い色をしていたんで赤紙って呼んだのさ」
 「説明を聞いても私にはさっぱり分りません」
  半井嬢はおじさん達の話にはついてゆけないと帰って行く。
 「若い人達には説明しても分らんよな、無理もない。その赤紙を今度持って来るとす
るか・・・・・ところで話は変わるが犬のマークのラッパ蓄音機はないのか?」

 「それは無理ですよ、あれは手入れが良ければ何十万円もする代物ですよ。こんな

ところへ持って来る人はいませんよ」
  今度は金森支配人が神田に代わり答える。
 「そうか・・・・・・集まるのはこの程度か?」
  と木枯は昭和30年代に流行った懐かしいポータブル蓄音機を見る。

 「番頭、せっかくだから何か聞かせろよ?」
  と木枯がリクエストする。
 「そうですか、それじゃあ、ひとつこれを聞いてもらいましょう」
  金森支配人がそそくさと立ち上がり、ポータブル蓄音機の隣にあったCDコンポの
ボタンを押す。
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  少し間があってから懐かしい前奏が聞こえて来る。
 「おっ、青い山脈だ」
  木枯が前奏を聴いていると、すーすーと針のこすれる音、しゃりしゃりと砂埃に当
たる音が聞こえて来る。
 「こりゃあ、まさしくSPレコードの音だ。暖かくて柔らかくて優しいねぇ、やはりレコ
ードはこうでなくっちゃ・・・・・・だけどどうしてCDコンポで聴いているんだ?」
  木枯は金森支配人に訊ねる。

 「それはね、こういう事なんです、仮にSPレコードプレーヤーと針があったとしても、
SPレコードはかけるたびに傷ついてどんどん劣化するんです」
 「それじゃあ、新冠のレコード館はどうしているんだ?」 
 「やっぱり困っていると思いますよ。それで知り合いのオーディオマニアに頼んで
集まったSPレコードをデジタル音に変換してもらいました。そしてCDやUSBに記録
してもらったんです」
 「ユウエスビィって何だ?」 聞きなれない言葉に木枯が質問する。
 「これがUSBです。CDより容量が大きくてSPレコードが何百枚分も記録出来るん
ですよ」
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第17話 市民栄誉賞  その1 ★






















           

         


























































































































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