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デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  こう言って立川社長は隣の朝日のあたる家に向う。立川社長が入口のドアを開
けると、店内はジジババでほぼ満杯である。
 「あら、立川社長、お珍しい」
  立川社長を目ざとく見つけたまり子がかけ寄る。
 「半井嬢の言うとおりずいぶん流行っていますね」
 「お陰様で、コーヒーでも?」
 「忙しそうだから構わないでください。ただ盛況の訳を教えてもらおうと思って」
 「それはこれなんです」
  まり子が猫曼荼羅の下のテーブルに案内する。
 「お手玉、古い雑誌、SPレコードか、懐かしいねぇ」
 「そうなんです、こんな物がお年寄りの皆さんの心を引きつけるんですね」
 「これなら私だって魅かれるよ」
 「それがですね、まだまだ一杯あるんですよ。ただここではもう飾る場所がなくって、

猫じゃら工房に飾らしていただいているんです」
 「そうですか」
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 「社長さんのお店にはトイレもお借りして、たいへんご迷惑をおかけしているんじゃ
ないかと思って」
  まり子の言葉で立川社長はこの店にはトイレがなかった事を思い出した。
  立川社長は甥が投げ出した靴屋の址をまり子に貸す時、立川社長はまり子や神
田や金森支配人と協議したが、問題はトイレだった。立川社長にしてみれば元々の
店が狭かったしそれほど客が来るとも思えなかった。改築費もかさむだろうから仏
壇屋蓮華堂のトイレを貸すという立川社長の提案でトイレは見送られたのだった。
 「まり子さん、トイレの事は気にしないで使ってください、当初からのお約束ですか
ら・・・・・・それじゃあ、私はこれで失礼して、猫じゃら工房にあるという他の宝物を見
せてもらいます」
  と立川はまり子に別れを告げる。
  立川社長は朝日のあたる家を出て自分の店に戻る。店内にはお爺ちゃんお婆ち
ゃんの一団があり、金森支配人のお仏壇講座を笑いこけながら聞いていた。立川
社長はその光景を左下に見ながら右手の階段を上る。

 「社長?どこへ?」
  立川社長の後姿に気づいた半井嬢が声をかける。
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 「朝日のあたる家の別館さ」
 「別館?」
  半井嬢が首をかしげる。
 「神田さん、こんにちわ」
 「これは立川社長さん、ご無沙汰しています」
  神田が慌てて立ち上がる。
 「これは素晴らしい、懐かしグッズ博物館だ」
  立川社長は驚嘆する。
  部屋の周りには懐かしい品々が整然と並べられていた。パッチ・ビー玉・ベー駒・
ゴムぱちんこ・けんだま・竹とんぼ・おはじき・綾取りなどのおもちゃ類、着せ替え

形・キューピー・こけしなどの人形類、少年・ひまわり・おもしろブック・少年王者・野球
少年などの古い雑誌類、歌謡曲・浪曲・クラッシックなどのSPレコードと手回し蓄音
機、煙管と煙草盆・煙草入れ・マッチ・灯油ランプ・湯たんぽ・小さな火鉢などの生活
道具類である。

 「まるで戦後か戦中にタイムスリップしたみたいだね。神田さん、こんなにたくさん、
良く集めましたね?」
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 「まり子さんの店に来るお客さんにお手玉など3点セットを見せたら、『こんな昔の物
ならわが家にもあるよ』と持ち込んでくれたり送ってくれるようになったんですよ」
 「そうですか、わが家にだって探せばいくつもありますからね」

 「みんな何かかにかあるんですが、どれもゆかりがあって捨てるに捨てられなくて困
っているようですよ・・・・・・それに最近は捨てるにも有料になりましたから喜んで提供
してくれるんですよ」
 「なるほどね・・・・・・お客さんはこれらを見てご幼少の頃を思い出し、さっきのように
なつメロを歌って気持ちよくお帰りになるんですね」
 「それだけじゃないんです。お客さんは最後に金森支配人の『誰にでも分るお仏壇
講座』を聞いて仏様の功徳をもらってありがたくお帰りになるんです」
 「そうですか」
 立川社長は嬉しそうにうなづく。
 (金森支配人もなかなかやるもんだ)
  と立川社長は今日来た大事な用事をすっかり忘れて感心していた。



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第16話 青い山脈  その 6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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