きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

 「その元気なおばさんがどうしたの?」
 「半月前に朝日のあたる家にやって来てさ・・・・・・
  と神田がその時の様子を話して聞かせる。
 「しかし、それにしてもこんなに来るとはねぇ?橋本おばさんの交際範囲は相当な
ものだ」
  神田は感心する。
 「そうだったんですか?しかし、こんな物は若い人には単なる古道具にしてか見え
ないと思いますが・・・・・・」
  半井嬢が頭をかしげる。
 「そうかもしれないねぇ?しかし、年寄りには子供時代を思い出し、とても懐かしい
と感ずるらしく、口コミであれらを見に来るお客さんが増えてきたんだ」
 「最近、まり子さんの店に爺ちゃん婆ちゃんが増えたと思ったらそのせいなんだ」
  半井嬢がようやく合点した様子である。
 「懐かしグッズもこれだけ集まると狭い朝日のあたる家では飾りきれないなぁ?」
  金森支配人が心配する。
 「これは何とかしないと?」
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  神田は目の前のダンボールの山を眺め思案していた。

 (金森支配人の言うとおり、確かに仏壇屋蓮華堂は古くなった。老舗とは言いなが
ら朝日のあたる家と佐世保ハンバーガー店にはさまれて、古さが際立っている)
  仏壇屋蓮華堂の立川社長が自分の店の前に立って古くなった店をしげしげと見
ていた。
  この夏、金森支配人はせめてリニューアルしないと客が来ないと立川社長に進言
していたが、立川社長は採算が取れないと保留にした。かと言って社長の立川にも
それに変わる良い案も浮かばない。どうするかしばらく考えていたが、今になって金
森支配人の提案を受け入れざるを得ないと思うようになっていた。しかし、一度保留
と決めた金森支配人の案を再び受け入れると本人に伝えるのはなかなか難しい事
である。そのため
お詫びの意味もこめて自らここまでやって来たのである。
 (準備を今からしていかないと来年の春分の日までに完成しない)
  立川社長は意を決したように店の中に入る。

 「半井さん、金森支配人は?」
 「あら、社長、いらっしゃいませ。金森支配人は2階ですよ」
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  半井嬢が事も無げに言う。
 「2階で何をしているの?」
 「歌の指導です」
 「歌の指導?」
  立川社長が首をかしげていると、ドアが開いているのか2階から大きな声が聞こ
えてきた。
 「たんたんたん、たんたんたん、たりらりらーらら、たんたんたん、たんたんたん、た
りららたりらー、たーんたか、たりらーら、たりーらららんらんらん、たーたかたりらーら、
たりらら、らんらんらん、ハイッ!」
  どうやら金森支配人が合唱指揮をしているようである。金森支配人のかけ声に続
いて、「若く明るい歌声に 雪崩れは消える 花も咲く 青い山脈 雪割桜 空のはて 

今日もわれらの 夢を呼ぶ・・・・・・」と大勢の歌が聞こえて来る。(作詞:西條八十)
 「青い山脈?懐かしい歌を歌っているねぇ」
  立川社長が2階の歌声に合わせハミングする。

  歌が終わり盛大な拍手がおさまると再び金森支配人の大声が聞こえてくる。
 「みなさーん、たいへんお上手でした。お疲れ様です。本日の音楽のお時間はこれ
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にてお仕舞いです。続いて下の仏壇屋蓮華堂にてやさしいお仏壇講座を開催しま
す。お暇な方も、喉が渇いた方も、厠に用事のある方もお立ち寄りください。きっと仏
様の功徳がありますよ」
  ジジババの笑い声がはじける。間もなく金森支配人が7人ほどのジジババを連れ
て降りてきた。
 「あっ、立川社長、何してんの?」
  金森支配人が階段の下にいた社長に気づく。
 「君に用事があって」
 「今立て込んでいますので、もう少しお待ちいただけますか?」
  と金森支配人は社長をさておいてジジババを店内に案内する。
  立川社長は唖然としながら半井嬢に聞く。
 「支配人は毎日こんな事をやっているのか?」
 「そういう訳ではありません、朝日のあたる家に客が入りきれなくなった時だけで
す。最近まり子さんのお店は爺ちゃん婆ちゃんのお客が増えているんです」
 「朝日のあたる家が繁盛している?それは良かった。私もしばらく顔を出していない
からひとつ見てきましょう」
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第16話 青い山脈  その5 ★★★★★






















           

         



































































































































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