きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「私の知り合いの金子さんが先日ここで素晴らしい仏画を見たって言うんで早速見
に来たの。私は芸術に五月蝿いけれどもこれならなかなかのもんですよ。もっともあ
の人は3年前に爺さんを亡くして悲しんでいたから、仏様として拝んでたようだけど
・・・・・・これはみんなに教えて上げなきゃね」
  橋本おばさんがここに来た訳を話す。
 「そうですか、この絵は知り合いの北山先輩が描いた物ですが、お2人ともなかな
か見る目がありますね」
  神田が少しお上手を言う。
 「そう?お世辞でも嬉しいわ」
  おばさんはそう言いながらようやく空いたテーブルに座る。

 「ところで、ご注文は何か?」
  おばさんの言動が一段落したところでまり子が水を持って行く。 
 「ここは商売だから持っているペットボトルを飲むって
訳にはいきませんね?たまに
はコーヒーを飲んでみるか?ミルクと砂糖をどっさりね」
 「分りました」
  まり子はうなづいてコーヒーを入れに行く。まり子の苦手なタイプと見た神田はホ
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ストに徹する。
 「橋本さん、カメラもやるんですか?」
  と訊ねると、
 「少しばかりね、これは携帯用デジカメでそこそこの性能よ。私は札幌写真家協会
の真鍋さんを良く知っていて時々モデルになったり、写真の写し方も教わっているの。
もちろん真鍋さんの写真展には必ず顔を出しているわ」
  おばさんは神田にカメラを見せながら話す。
 「モデルも?」
  神田はそんな玉ではないと思いつつ、つい本音が口をついて出る。
 「モデルって、この写真のようにね」

  おばさんは手提げカバンから2L判の1枚の写真を取り出す。真鍋写真家協会会
長が撮ったと思われるスナップ写真で、道東の湖で白鳥に餌をやっている橋本おば
さんが
写っていた。
 「ああ、なるほど。こういう撮影会にはいつも参加しているんですか?」
 「私は定年後いろんなボランティアに参加していてね、毎日忙しいの。それに撮影
会はお金もかかるし、参加するのは身体が空いた時だけね」
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 「ボランティアも?」
 「川の掃除をしたり、交通安全運動に参加したり・・・・・・」
 「そりゃあ、素晴らしい、なかなか出来ない事ですよ」
 「独りもんで毎日暇だから何かしないとね」
  そこにまり子がコーヒーを持って来る。橋本ちえおばさんはコーヒーに砂糖とミルク
をどっさり入れ、スプーンでぐるぐるかき混ぜてずずっと吸い込む。
 「ああ、うまい。やはりうちのインスタントとは違うわ」
  と改めて店内を見回す。猫曼荼羅の下のテーブルにはお手玉、古本、SPレコード
が飾ってあった。
 「あら?先ほどは気がつかなかったけれども、あれはお手玉?」
 「そう、お客さんが持って来てくれたの」
  まり子が答える。
 「お手玉を見るのは何十年ぶりだろう?触っていい?」
 「どうぞ」
  橋本おばさんは壁に面したテーブルに近寄りお手玉を手に取る。
 「あら、このあずきの感触が何とも言えないわね」
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  とお手玉を宙に飛ばす。それを見ていた猫のサンが冷蔵庫の上から駆け下り、テ
ーブルの上に乗るや否や立ち上がって右手でお手玉を取ろうとする。
 「あら、この子もお手玉に参加したいのかしら?可愛いわねぇ」
  橋本おばさんはお手玉をサンに預け、背中をなでてやる。
 「お手玉の他にも珍しい雑誌や古いレコードも飾っている。ひまわりや青い山脈じゃ
ないの?懐かしいわ」
  そう言いながら橋本おばさんはこれらもカメラで撮っている。
 「みなさん喜んで下さり『今度は自分の家にあるお宝を持ってこよう』っておっしゃる
の」
  まり子がにこにこして言う。
 「そうだ、私も友達に教えてあげよう。みんな何かかにか持っているわよ、親の形見
みたいなものが・・・・・・だけど捨てるに捨てられないのよね」
  橋本おばさんの言葉を聞いた神田の感が騒ぐ。
 「そういう懐かしい物があったら飾らせて下さい。持って来るのが面倒なら送ってくだ
さっても結構ですよ、お礼は出せませんが」
  神田のこの言葉に、
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第16話 青い山脈  その3 ★★★






















           

         



































































































































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