きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「分った、武田さんいっしょに帰ってください、私は少し残りますから・・・・・・」
  神田が武田に告げる。
 「ご馳走になっていいですか?それじゃあ、大旦那、若旦那ご馳走様でした」
  そう言って武田とまり子が帰って行く。

  「やあ、今日はありがとう、2人とも喜んでいたよ」
  神田が大旦那に料金を払いながらお礼を言う。
  「かえってこちらこそありがとうございました。みなさんに喜んでいただけて幸せで
す。神田さんお時間があればコーヒーでも?」
 「そうですか、それじゃあ」
  と神田は古びた会計機の傍のテーブルに腰をかける。午後1時に近くなるとテー
ブルは空いて来ていた。大旦那がインスタントのコーヒーを運んでくる。
 「久し振りにここまでやって来ましたが、猫じゃら小路の人通りは減っていないです
ね。むしろ少し多くなった感じがします」
 「そうですか?私ら毎日の事であまり感じませんが・・・・・・」
 「良い事ですよ。人が増えるのは」
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 「あちこちに新しい商業施設が建っていますが、人間て不思議な者でピカピカ輝い
ている所にはどうしても馴染めない人間がおります。そういう人にとって猫じゃら小
路は至極居心地が良いんですね。最近増えている中国人の観光客も同じじゃない
でしょうか?この7丁目近辺は古い建物がごたごたあり、どこか故郷の中国の田舎
にも似ている、そこが良いのでしょうね」
 「なるほど」
 「ふつうの人はアーケードもない空き地や駐車場のある8丁目以西を見に来ない。
しかし、わざわざ端っこを見に来る物好きもいる。『やっぱり寂れている』と確認して安
心して帰る。酒飲みもわざわざ10丁目まで飲みに来る。やっぱり心が安らぐのでしょ
うね」
  神田は大旦那の深い洞察力に感心していた。
 「それで 店も昔のままで行く、そういう事ですね」
 「そんな深くは考えてはおりません。この歳ですからもう新しい料理には挑戦できま
せん、今の料理を出し続けるだけです」
 「それで、最近は今日いただいた一品料理も宅配しているとか?」
 「人の良い銀之助が焼きそばや丼物を配達した時、年寄りや独り者に頼まれてね、
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きんぴらゴボウやおからなどを・・・・・・サービスでやっているうちに、『ついでにジャガ
イモ3個と玉ねぎ2個を買ってきてくれ』などと頼まれるようになりました。まるで便利
屋ですよ。私と同じ年寄りですから気持ちが分らんでもないですが、店としては採算
も取れません。しかし、銀之助はボランティアのつもりか喜んでやっています」
 「そうですか、それは良い事です」
  神田が奥の厨房を見ると客が少なくなったのに孫の銀之助が忙しそうにしていた。
 「ちょっと彼に挨拶を・・・・・・」
  神田はお爺ちゃんに断り、厨房のほうへ足を運ぶ。
 「若旦那、今日はご馳走様」
 「どういたしまして、ほとんど爺ちゃんの仕事ですから・・・・・・」
  銀之助は仕事の手を休めない。どうやらこれから配達する品物を一つ一つ確認し
てダンボールに詰めているようである。
 「今、お爺ちゃんに聞いたけど、お年寄りの面倒を見ているんだって?」
 「そう、うちの爺ちゃん見たく元気な年寄りばかりじゃないからね。買い物したくても
重い物は持てない、おかずも1回作ると毎日食べなきゃならない、みんな困っている
んですよ」
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 「そうらしいね」
 「みんな『ほんの少ししか頼まなくて悪いわねぇ』と言いながら喜んでいるよ。それ
に話し相手が出来た事も・・・・・・みんな独り暮らしで寂しいんだ」
 「それはいい事をしているよ」
 「うん、楽しい仕事さ。さあ、もう行かなくっちゃ。爺ちゃん、行ってくるよ」
  そう言って若旦那は元気良く店を出て行った。
 「お爺ちゃん、若旦那もようやく進む道を見つけたようだね?」
 「どうだかね?」
  そう言いながらも爺ちゃんは嬉しそうだった。
 「小さい秋見つけた、か?」
 「何です?」
 「いや、こちらの独り言です」
  神田はそう言ってお店を後にした。神田はとても幸せな気分になっていた。



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第15話 小さい秋見つけた その6 ★★★★★★






















           

         




































































































































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