きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  神田が歩き疲れた2人を呼び寄せる。ちょん月食堂は3人のお客を待つようにド
アが空いていた。
  3人が中に入ると手前のテーブルに常連と思しき年配の2人連れが2組食事をし
ていた。早速、大旦那の佐藤万之助が寄って来て3人を右奥の予約席に案内する。
大旦那は洗い立てのさっぱりとした服装に昔ながらの大きな前掛けをしている。
 「みなさん良くお出でくださいました。孫の銀之助がいつもお世話になりましてあり
がとうございます」
  大旦那が深々と頭を下げる。
 「神田さん、約束の料理を出してもよろしいですか?」
 「はい、たのみます。1丁目から歩いてきたら腹ペコさ」
  武田とまり子は期待はずれとげんなりした顔をしている。そのうち大旦那と若旦那
が代わる代わるやって来て一品料理をそれぞれの席に次から次へと並べる。肉じゃ
が、サンマの塩焼き、イカの刺身、きんぴらゴボウ、おから、出汁巻き玉子、白菜のお
ひたし、焼きのりと山わさび、塩辛、ぬかみそ漬けなどなど・・・・・・
  武田とまり子は呆然としてその動きを見守るばかりであった。
  最後に大旦那が白いご飯と味噌汁を各人に配る。
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 「手作りの物ばかりですが、お口に合いますかどうか・・・・・・どうぞ、召し上がって
ください」
 そう言って大旦那は下がって行った。
 「これは凄い」
  おふくろの味に飢えている武田が相好を崩す。
 「神田さん、焼きそばじゃなかったの?」
  まり子が思わず声を上げる。
 「そうさ、俺がみなさんにご馳走するんだ、そんな事するかい?さ、食べよう」
  神田が先に箸をつける。
 「これぞまさしく手作りの味だ、嫌味のない味だ」
  最初におからを食べた武田がうなる。
 「これだって、市販のぬかみそとは大違い、美味しいわねぇ」
  一夜漬けのぬかみそのキュウリをかじったまり子が目を丸くする。さっきまでの失
望感が飛んで行く。
 「うん、どれもこれも美味しいや、これじゃ年寄りが喜ぶ訳だ」
  神田の一言に、
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 「ん?」
  とまり子は神田の顔を見る。
 「この味を一度味わったお年寄りが出前を頼むんだって」
  神田が答える。
 「そりゃあいい、これなら私でも頼みたいくらいだ」
  武田がうなづく。
 「そうだろう、ここから西は単身赴任や独り暮らし用のマンションが数多くあるから、
その住人がおふくろの味を求めてちょん月食堂にやって来るようだよ」
  神田が解説する。
 「周辺にはビジネスホテルも多いから、ホテルの食事に飽きた人はこういう食事を探
してくるかも知れないね」
  武田が続ける。
 「デパートのお惣菜も簡単に買えて良いけれど、どれも味が画一的で、続くと飽きて
しまうわよね」
  まり子が箸を止めて話す。
 「だけど、どうしてババどもはいつもデパートをうろうろしているんだ?たいして物を
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買っているとは思えないが・・・・・・それにジジイは何をしているんだ?」
  そう言って神田が食後のお茶を飲む。
 「この間、ラジオでお婆ちゃんのリスナーがこんな事を言ってたよ。お婆ちゃんはど
こへもいかず朝から晩までテレビを見ているジジィの顔を見たくないんだって、それで
デパートへ出かけるんだそうだ。ダンスや水泳や山登りに出かける婆ちゃんもいるそ
うだ」
  武田が話して聞かせる。
 「そのお婆ちゃんの気持ち分かるわ」とまり子がうなづく。
 「そういう事か、会社一筋で仕事をして、退職したら何もする事がない、そういうジジ
イは哀れというか可哀想だねぇ。こちらのお爺さんのようにいつまでも仕事を出来る
人は幸せだ。俺も退職後の事を何か考えないと・・・・・・」
  神田がため息をつく。
 「まりちゃん、そろそろお店に戻らないと・・・・・・」
  武田が気をつかう。
 「そうね、美味しくてすっかり忘れていたわ・・・・・・お爺ちゃんご馳走様でした」
  まり子が帰り支度を始める。
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第15話 小さい秋見つけた  その5 ★★★★★






















           

         




































































































































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