きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  何を思ったのか神田は武田の食事を心配する。
 「お気遣いありがとう。売れない三文小説家はあい変らず夢を食っているよ、腹は
膨れないがね、ははは」

  と武田は人を食った返事をする。

 「それじゃあ、ひとつ美味い物でも食いに行きませんか?」
 「ひょっとして神田さんのおごりですか?」
 「もちろんですよ。そうだ、まりちゃんも行こうや」
 「この店はどうするの?」

 「金森番頭に頼んで半井嬢に来てもらうよ」

 「そんな事頼んでいいかしら?」
  と言いながらも神田のおごりと聞いて期待が弾む。
 「よし、そうしたら予約しておくよ。番頭の了解を得たら出発だ」

  かくして、3人は1丁目のはずれにある朝日のあたる家を出発する。店の前にはど
こから飛んできたのか、枯葉が数枚かさかさと音を立てて回っていた。
  早世川の道路工事も終盤に差し掛かり、道路もじょじょに整備されて来ていた。そ
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のため武田の爺ちゃんのように早世川の東側のマンションから猫じゃら小路にやって
くる人も増えてきていた。
 「すぐ目の前にカレー屋と佐世保バーガーがあるけど、ここじゃないよね?」
  武田がまり子の方を見る。
 「ここなら予約する必要がないじゃない、何を言ってるの」
  まり子が武田を睨みつける。
  2人がこんな馬鹿げた話をしているうちに神田はどんどん西の方へ向う。衣料品
屋、質屋を過ぎるとうどん、そば、ラーメン、スパゲッティなどの旗や看板がどっと目
につくが、神田はそれらに目もくれない。
  2丁目に向う信号を待っていると、左前方に鉄板焼きの赤い派手な看板が見え
た。
 「涼しくなってきたから、鉄板焼きもいいわねぇ、武田さん」
  まり子が後ろの武田を振り返る。
 「あそこじゃないな、神田さんが見ていないじゃん」
  神田の姿をずっと追っている武田がぼそっと呟く。
 「そうか」
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  当てが外れたまり子は諦めて信号を渡る。猫じゃら小路は西に向うに連れてじょじ
ょに人の数が増えてくる。
  おととし神田と金森支配人とで忘年会をやったジャガービヤホールも右手に見え
る。神田の後姿を追っているうちに3丁目のドン・キホーテも過ぎてしまった。4丁目
のジャガイモハウスも過ぎる。
 「神田さんはどこへ行くのかね?」
  神田の行き先が分らない武田がまり子に訊ねる。
 「今度は5丁目でしょう?5丁目だったらきっと焼肉よ。三松3条ビルには美味しい
高級焼肉屋があるのよ」
 「そうですか?神田さんが我々を高級焼肉屋へ連れて行くとはとうてい思えない
が・・・・・・」
 人を簡単には信用しない武田はまり子の話を疑う。
 「それもそうだわねぇ、そうすると、もぐイートの寿司屋くらいかな?」
  今度こそはと期待が弾むまり子が右手を見ると、もぐマートともぐイートには数多く
の人が出入りしていた。
 「ふうむ、そうかなあ?」
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  と武田はまだ納得しない。あい変らず前方を歩く神田の動きを見ている。

 「あら?またはずれ?もう、神田さんはどこへ行くのさ?」
  まり子の丸い顔が怒りでだんだん膨らんでくる。
 「もう、6丁目だよ。ロックは居酒屋だしロシア料理コザックぐらいしかないよ。それも
夜だけの営業だ、ここでもないね」
  このロシア料理店に一度来た事がある様子の武田が解説する。信号待ち以外ずっ
と止まらず歩いてきた2人はかなりお腹が空いてきた。食べ物だったら何でも食べら
れる心境になっていた。
  そして、7丁目に入った時2人は同時に叫んだ。
 「ちょん月食堂?」
  思わず2人の足が止まり、お互いの顔を見るる。
 「もう少しだよ、頑張れ」
  前を歩いていた神田が振り返りニヤリと笑う。
 「こんな事だと思った」
  武田は唖然として立ちすくむ。
 「早くおいでよ、お腹が空いたろう?」
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第15話 小さい秋見つけた  その4 ★★★★






















           

         


































































































































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