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忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「ご覧の通り、今、わしゃ風呂に入っているんだ」
  迷惑そうな顔をした老人は小柄の割りに声が大きい。
 「分りました、私はこのまま待っています。風呂をすませてください」
 「そうか、それじゃあそうしてくれ」

  そう言って老人はドアを閉める。
 (やれやれ良かった、また来なくともすむ)

  神田はそう思い、改めて薄暗い庭を見る。庭の散水ホースや植木バサミやスコッ
プがあちこちに置かれていた。庭の手入れもおろそかになっている。
 (数年前にここを通った時にはこの老人が庭で良く手入れをしていたのに、どこか
悪いのか?・・・・・それにしても寒くなってきたな)
  神田は黒いジャンパーの上から腕をさする。あれだけ暑かった夏も終わり、数日
前から少しずつ朝晩の気温が下がり始めるようになってきていた。
  20分ほどして、再び玄関のドアが開き、パジャマを着た老人が再び顔を出す。
 「やあ、すまんな」
 「こちらこそ、昼間来ても居られなかったから」
 「何時頃だ?」
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 「午前11時頃ですよ、このインターホーン壊れていませんか?」
 「壊れていないよ。ただ、昼間はいろんなセールスが来るんでね、応対するのが面
倒で居留守を使っているんだ」
 「ふうん、そうですか。独り暮らしですか?」

 「そう、5年前に家内に死なれてね・・・・・・」
 「それは何かと不自由でしょう?」

 「何、わしゃ単身赴任も何年もしていたから家事は慣れているけどね・・・・・・だけ
ど、5年間も独り暮らしを続けたらこの頃何だか面倒くさくなってね。今じゃ、寝たい
時に寝て、食べたい時に食べているよ」
 (老人性うつ病か?それにしては良くしゃべる爺さんだ。見たところ身体はどこも悪
くなさそうだが・・・・・・)
 「お子さんは?」
 「息子が千葉にいるよ」
 「息子さんの所へ行かれたらどうですか?千葉は海の幸、山の幸に恵まれ、良い
所だと聞いていますよ。」
 「息子は千葉に来いと言ってくれるんだが、わしゃ北海道が好きでね、ここを離れた
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くないのさ・・・・・・」
 「それじゃあ、老人ホームでも入ったら?お友達も出来るし・・・・・・最近はあまり高
くないのもあちこちに出来ているようですよ」
  この老人は暮らしに困っていないと見た神田は老人ホームに入る事を勧める。
 「君、どこか良い施設を知らないかね?」
 「私も詳しく知りません。それは息子さんと相談されたらどうですか?今はインター
ネットで千葉に住んでいても札幌の老人ホームを探せますから・・・・・・」
 (この老人は久し振りに話し相手が見つかったものだからハイになっている、可哀
想だがそろそろ切り上げないと俺は帰れない・・・・・・)
  そう考えた神田は、
 「まだ外に寄る所もありますので本題に・・・・・・」
  と思い切って話を打ち切る。
 「そうか」
  老人はまだ話し足りない顔をする。
  神田は国勢調査の趣旨を説明し、そうそうに引き上げる。
 (老人の独り暮らしはここにもあった。高齢化社会は想像以上に進んでいる)
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  神田はそう思いながら残った家を訪問すべく暗い生垣の庭を出た。見上げた夜空
の雲の切れ間に小さな星がかすかな光を放っていた。

  神田の話を聞き終えた武田とまり子はしばらく声が出ない。
 「身につまされる話だねぇ、独り暮らしで人が嫌いになって、だけどどこかで人が恋
しい、話し相手がほしい・・・・・・」
  武田がため息をつく。
 「本当に寂しい話よね」
  とまり子もつぶやく。
 「その老人の気持ち、分かるねぇ、それでおいらもまり子さんの店に通っているの
さ」
  そんな武田のわざとらしい言葉にまり子は、
 「まあ、何ていけずうずうしい、こんなババァで悪うござんしたね」
  と口を返す。
 「まあまあ、お2人さん、それくらいにして・・・・・・ところで独り暮らしの武田さんはち
ゃんと三度の飯を食っていますか?」
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第15話 小さい秋見つけた  その3 ★★★






















           

         




































































































































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