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デジカメ あしたのジョー
 「うん、何でこの俺が指名されたのか、今年の町内会の総会で文句を言ったから
かな?それとも仕事がたいして忙しくないと見られたのかな?」
  神田はいまだに納得が行かない様子である。
 「神田さん、ホットでいい?」
 「うん」
 「国勢調査といえば昨日俺のマンションにも調査員が来ていたよ。だけど、国勢調
査はどうして10月1日現在なんだろう?」
  武田が素朴な疑問をぶつける。
 「10月は入学、就職、転勤がほとんどなく、人口の移動が一番少ない時期だそう
だよ」
  神田が調査員の説明会で聞いたばかりの話を言って聞かせる。
 「なるほど、しかし、国勢調査は調査票の手渡しが原則と言うから大変だね、夜討
ち朝駆けも覚悟しないと・・・・・・回収にも行かなければならないのだろう?」
 「今回の調査から調査員の負担を減らすために、対象者が郵送も出来るようになり
ました」
 「そうかい、だが、マンションは大変だね。俺のマンションは高級じゃないから誰でも
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入って来れるけど、カード管理や暗証番号で管理しているマンションは1階の入口に
も入れない・・・・・・そんな所はどうするんだろうね?」
  武田が神田の苦労を心配する。
 「管理会社と交渉して実施するしかないでしょうね。幸い俺の調査区は昔ながらの
アパートやマンションばかりなので助かるよ・・・・・・」
  神田がほっとした顔をする。
 「それでも最近は表札をかけていない人がいるから大変よね」
  神田にコーヒーを持って来たまり子が同情する。
 「変なセールスや押し売りに名前を知られたくないと警戒しているのかも知れないが、
まったく変な世の中になったよ」
  武田が呟く。
 「今回初めて各家々を回って見て、高齢化が予想以上に進んでいる事が分ったよ」
 「どういう事?」
  まり子が尋ねる。
 「いつもは何気なく通っている所だが、今回真面目に見て歩くと表札があっても住ん
でいる形跡のない一軒家が数多くあるんだ。周囲の家に聞いてみると、独り暮らしの
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人ばかりなんだが、病気で入院したり、老人ホームへ入ったり、子供の家に身を寄せ
たりね・・・・・・一方で高齢者の独り暮らしもたくさんいる。これにも驚いたねぇ・・・・・・」
  こういう神田の話に、
 「俺のマンションにも独り暮らしの老人はたくさんいるな。廊下のドアの前に牛乳箱
や取りまとめ購買の配達物、食材の宅配便などが置いてあるんだ。だんだん重い物
を持って歩けなくなってきているんだね。リュックサックに車をつけたコロコロも良く置
いてあるよ」
  と武田が相槌を打つ。 
 「マンションだけでなく一軒家も同じ状況だね。一軒家の独り暮らしと言えばこんな
事もありましたよ・・・・・・」
  神田は一昨日の出来事を思い出していた。
  
 「斉藤さん、斉藤さん、おられますか?」
  夜の暗がりの中、神田は大声を上げるとともに玄関のドアをどんどん叩く。
  しかし、家の中からは何の返事もない。玄関の左手の居間とおぼしき窓からは蛍
光灯の灯りがカーテン越しに見えている。
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 (中に人はいるはずだが、はてどうしたものか?)
  神田は途方にくれていた。
  2010年9月25日の日曜日の午後7時頃、神田は生垣が軒までうっそうと伸び
た一軒家の薄暗い玄関に立っていた。神田は国勢調査で調査票を各戸に直接手渡
しする
ため昨日から朝夕2回ずつ担当の2つの調査区を回っていた。
  この斉藤さんの家にも今日の午前中
に一度やってきたが、玄関のインターホーン
を押しても反応がなく、諦めて帰った来た。しかし、この家を飛ばすわけにもいかず、
夜ならいるかもしれないと改めてやって来たのであった。
 (この時を逃すとまた来なければならない、今回こそ捕まえないと・・・・・・)
  神田は硬い決心をして再度挑戦する。
 「斉藤さん、斉藤さん?」
  神田は周囲の家にも届くような大声で名前を呼び、かつドアをどんどん叩く。しばら
くして玄関の灯りが点り、小さい老人が顔を見せた。
 「なんだい?五月蝿いね」
  ガンジーみたいに痩せた老人は裸で腰をタオルでおおっていた。
 「国勢調査のお願いにあがりました」と神田が答える。
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第15話 小さい秋見つけた  その2 ★★






















           

         

































































































































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