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デジカメ あしたのジョー


 「暑いねぇ、とにかく暑い。ここへ来るとクーラーが効いてほっとするねぇ」
  朝日のあたる家に武田の爺ちゃんがやって来た。あい変らず開襟シャツの襟を大
きく開けて扇子でせわしなく風を送り込んでいる。
 「ほんと、今年の夏はどうしてこんなに暑いのでしょう?」
  まり子は抱いていた猫のサンを解き放ち、アイスコーヒーを入れる体勢に入る。
 「お陰で毎晩睡眠不足ですよ。しかし、私は勤めがないからどうって事はないです
が」
  クーラーの風に当たった武田はようやく扇子をテーブルに置く。
  2010年8月30日、札幌の最高気温は34.1℃を記録し、最低気温も24.4℃に
なっていた。この翌日8月31日に神田が変な夢を見たのである。
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 「こうも暑いと人間は変調を来たすのでしょうか?」
  まり子がアイスコーヒーを武田に差し出す。
 「どうして?」
  武田がシロップを持ったまま尋ねる。
 「神田さんが昨日変な夢を見たんですよ」
 「どんな?」
 「それはねぇ・・・・・・」
  とまり子は昨日神田から聞いたばかりの夢の中身を武田に話して聞かせる。
 「何々、日本国が財政負担を減らすために元気なジジババを拉致して、南の島へ
開拓団として送り込むって?」
 「そうなのよ」
 「しかも、それが老人の失踪の原因だっだってかい?・・・・・・誠に良く出来た話だ
が、怖い話だね」
  そう言って武田はストローを使わずアイスコーヒーを飲み込み、いっしょに混じった
氷をがりがりっと砕く。
 「夢は心の鏡だとも言うが、神田さんもそうとう疲れているね」
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 「前日、大学の同級生と久し振りに会い、飲めないお酒を飲んだからだとは言って
ましたが・・・・・・」
 「お互い若くはないから無理をしちゃいかんよ・・・・・・ところでその開拓団の中には
あなたも入っていたの?」
 「神田さんの話によると、猫じゃら工房の木枯社長と私の3人が南の島に連れて行
かれたそうよ、私はまだ若くてババと言われるには早いのに」
  とまり子は不満そうである。
 「そうですよね、まり子さんはまだ十分魅力的ですよ」
  武田の答えに、
 「その答えじゃあ、ババって事ね、失礼ね」

  まり子は口を尖らす。
 「ははは、それだけむきになるところを見るとまだ若い証拠ですよ。そうだ今度来る
時には何か持ってきますよ、お楽しみに」
 「そう?」
  まり子は急に相好を崩す。
 「それじゃあ、また」
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  と武田の爺ちゃんは左手を上げ扇子を右手でばたばた振りながら出て行った。

  札幌は9月に入っても高温が続いていたが、下旬になるとようやく平年並みの気
温にもどり、人々は逆に夏の暑さを懐かしむようになっていた。
 「武田さん、いつになったらいい物持ってくれるの?いつも今度、今度って」
  朝日のあたる家ではまり子が武田に不満を言う。
 「最近は物忘れがひどくなって」
  武田が言い訳を言う。
 「ボケるにはまだ早いわよ」
 「そうか」
  そこへ神田がやって来る。

 「おはよう」
  神田の声に武田が振り向く。
 「おはよう、神田さん、久し振りだね。 元気?」
 「元気じゃないよ、国勢調査で疲れちゃった」
 「神田さん、5年に一度の国勢調査の調査員になったの?それは大変でしょう?」
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第15話 小さい秋見つけた  その1 ★























           

         

























































































































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