きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

  まり子が呟く。
 「そうなのか?それにしても麻酔のせいか喉がからからだ、飲み水はないか?」
  木枯は意識がまだ正常ではないと見え、話の途中で喉の渇きを訴える。木枯は
仕切りのない15畳ほどの部屋を見回すが台所らしき物はない。
 「水は外か?」
  と木枯は家の外に出てみる。後の2人も水を求めて外へ出る。小屋の裏手に回る
と古びた手押しポンプが見える。
 「おっ、懐かしいポンプだ、神田お前押せ」
  木枯は神田に命令する。水が待ちきれない木枯は水が汲み上がる前からブリキ
の出口の下に両手を差し出して待っている。
  暑い日差しの中、神田が10回ほど押すとようやく生ぬるい水がちょろちょろと出て
きた。時間が経つほどに少しずつ冷たくなってくる。
 「はぁーうまい、甘露甘露、酔い覚めの水は最高だ。まり子飲みな」
  木枯がたらふく飲んで顔まで洗った後、まり子に替わる。
 「水がこんなに美味しいなんて。神田さん、どうぞ飲んで、今度は私が押すわ」
  まり子と神田が交替する。
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 「冷たくてうまい、最後まで待ったかいがある」
  神田は飲んだ後、頭まで水をかける。
  水を飲んで一息ついた3人は照り付ける熱い陽射しを避け自然と掘っ立て小屋の
中へ戻る。窓と仕切りがない大広間に3人は思い思いの格好で座る。水分が脳まで
行き渡り意識がじょじょに正常になってくる。
 「そもそも我々は何故ここにいるんだ?ここは沖縄なのか?」
  木枯が疑問を呈する。
 「待ってくださいよ・・・・・・確か羽田で乗り換える時、GAL沖縄ツアーの団体といっ
しょだったわ」
  木枯の沖縄と言う言葉にまり子が反応する。
 「そう、思い出したわ、われわれは3人とも車椅子に乗っていたの。隣にいた沖縄ツ
アーのおばさんが『3人とも車椅子で参加な
のね?』って聞くと、3人の車椅子を押し
ていた男の人がかかわりたくなさそうに『そうです』と答え、さっさと搭乗口に移動した
の、だから私たちが一番先に搭乗したのよ。そこだけかすかに記憶があるわ」
  まり子が大きな目をくるくる動かす。
 「俺はまったく記憶がないな」
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  羽田の出来事を何も思い出せない神田は憮然としている。 お酒がまったくと言う
ほど受け付けない神田には麻酔が効きすぎたのかもしれない。
 「だけど、ここは沖縄本島じゃないと思うよ」
  と言う神田の話に、
 「どうして?」
  とまり子が訊ねる。
 「先ほどの羽田の件は記憶にないが沖縄の那覇空港に着いてから車に乗せられ
港へ行ったような気がするな。だって、港に着いた時潮の匂いがして一瞬目が覚め
たんだ」
  函館育ちの神田は潮の匂いに敏感である。
 「その辺は何も思い出せないな」

  木枯が呟き、隙間だらけの屋根裏を見ている。
 「私も何も覚えていないわ」
  まり子も頭を傾げている。

  「その時、ただならぬ気配を感じて薄目をそっと開けると、車には黒い服を着てサ
ングラスをかけた2人の男がいたんだ。何となく893を連想してさ・・・・・・こりゃ下手
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に暴れないほうが良いなと眠った振りをしていたんだ。木枯さんとまり子さんは正体
なく眠っていたよ、港に着いたら3人は待ち構えていた小さな連絡船に乗せられたん
だ。島と島を結ぶ小さな連絡船さ」
 「それで?」
  木枯が大きな目をむく。
 「3人とも貨物室に転がされたんだ。島へ運ぶ日用雑貨と同じ扱いさ。後は波のうね
りで俺もうつらうつらさ・・・・・・そうだ、ぽんぽん船のエンジンの音の合間から黒い服
の2人の会話が途切れ途切れに聞こえたよ」

  つい最近の出来事のはずなのに神田はずっと昔の事のように記憶の迷路をかき
分けて行く。
 「彼らは何て言ってたの?」

  まり子が先を催促する。
 「そう急がせるな」
  せっかちのはずの木枯がじっと神田の記憶回復を待っている。
 「話の前後は分らないが・・・・・・『しかし、国もとんだ失業対策事業をするよな?』、
『いくら税収が減るからと言って年寄りを姥捨て島に隔離するとは? この島はこれ
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第14話 ジジババ開拓団  その2 ★★






















           

         



































































































































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