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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
ととんでもない事を言う。
 「金森さん、それはひどい話よ」
  まり子も神田も金森支配人の話が当を得ているようで笑うに笑えない。

  それから1週間後の7月19日、朝日のあたる家にいつもの常連さんである武田の
爺ちゃんがやって来た。
 「お早うさん、やあー、暑いねぇ、アイスコーヒーを貰おうか」
  白地に細い紺の縦縞模様の半袖シャッを着た武田の爺ちゃんは入口の傘立てに
使い捨ての傘を差す。いつものカウンターに座り、腰に差していた団扇を取り出し、
おもむろにぱたぱたと扇ぎだす。
  札幌は7月15日から急に気温が上がり、今日まで夏日が続いていた。
 「お早うございます。雨降りだから今日は特に蒸し暑いわ。武田さんのマンションに
はクーラーが付いているんでしょ?」
  まり子が武田の爺ちゃんに話しかける。まり子が武田鉄矢に似ているからと勝手
に武田の爺ちゃんと呼んでいたお客さんは誠に偶然ながら武田と判明していた。
 「もちろん、だけど私の部屋は階が上の方だから風が良く通るんだ。よほど暑くない
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限り窓を開けているよ、音は五月蝿いけどね」
  武田の爺ちゃんはそう言いながらずずーっとアイスコーヒーを飲む。
 「そうですか?いいですね、わが家は未だに扇風機ですよ。・・・・・・話は変わります
が、武田さんは映画の楢山節考を見た事がありますか?」
 「もちろん、田中絹代のも坂本スミ子のも両方見たよ。だけどどうして?」
  武田はぎょろりとまり子の顔を見る。
 「先週ね、ご存知の神田さんと金森支配人とで参議院選の結果について話をしてい
ていたらたまたまそんな話題になりましてね」
  まり子が事の次第を話して聞かせる。
 「ふうむ、姥捨て山か?企業の業績も伸びず、月給も上がらず、失業者が増え、若
者の負担が大きくなると、『若い人の党』だとか、『KTB運動』と言う発想にもなりま
すかね?なるほど」
  武田は腕組みをして宙を睨む。
 「困った時代ですよね、ほんと」
  まり子がサンを腕に抱えながら話す。
 「私もすでに若者の世話になっている世代か、穏やかではないね」
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  武田はおかっぱ頭で白髪交じりの髪をかき上げる。そして、
 「いかんぜよ、そんな事したら、罰が当たるぜよ」
  と流行のTVドラマ坂本竜馬の口調を真似してみせる。
  「あら、そっくり。そう言えば武田鉄矢も坂本竜馬を演じているんですよね?」
  まり子が笑いをこらえながら話す。
 「あいつは演技が臭いけどもね・・・・・」
 「そうですか?龍馬伝の勝海舟役も堂々としてりっぱですよ。そうだ、楢山節考の
孝行息子も良いかもしれませんね。たまにシリアスな演技も良いと思いますよ」
 「顔がしわくちゃで、貧乏臭くて、楢山節考の孝行息子に向いているってかい?今
度あいつに会ったら言っとくよ」
 「本当?武田鉄矢と面識あるの?」
 「あはは、冗談、冗談」
  武田鉄矢と同じしわくちゃ顔をした武田の爺ちゃんは大きな目の目じりを下げて
大声で笑う。
 「ああびっくりした」
  まり子はほっと一息つく。武田の爺ちゃんは楽しそうにまり子の腕の中のサンを
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見て、
 「サン、お前はいいよな。猫の子は親猫か人間に捨てられるが、子猫は親猫や人
間を捨てられない。人間だけさ、親が子を捨てたり、子が親を捨てるなんて・・・・・・
それだけじゃない、人間が人間を捨てる事もある。宗教や民族が違うというだけで
他人を殺したり、戦争で他国の民を殺したり、国が戦争に負けて自国民を見捨てる
事もある。これは過去の歴史が証明しているし、現在も続いている。情けない話さ
・・・・・・話は戻るが、俺は子供がいないから子供に捨てられる心配はない」
  とニヤリと笑う。
 「ごめんなさい、変な話をしちゃって・・・・・・」
  まり子が武田の爺ちゃんに謝る。
 「いいって事よ、たまにシリアスな話もしなくっちゃ。そうでなきゃ老人の頭が錆び
付いてボケてしまうよ、そうだろう?」
  武田の爺ちゃんは明るくそう言いながら手をふって帰って行った。

  その頃、仏壇屋 蓮華堂では金森支配人があい変らず暇そうに通りの人の往来
を見ていた。すると、木枯社長が店のドアを開けて入って来た。
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第13話 姥(うば)捨て山  その5 ★★★★★






















           

         




































































































































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