きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「こうなるとますます新党が出てくる可能性があるな、少数政党の戦国時代がやっ
てくるかも・・・・・・」
  と神田が呟く。
 「神田さん、『がんばれ日本党』に対抗して『若い人の党』が出来るって話もありま
すよ」
  金森支配人がさらに続ける。
 「何だそれは?」
  神田が訊ねる。
 「年寄りに政治を任せても日本は変わらない、若者が政治の中心になろうと言う
党ですよ。今の日本の実情は増え続ける老人の年金や医療費用の大半をを若い
人が負担している。だから若者の実収入がいつまで経っても増えない、だから若い
人の政党を作り、現在の政策を見直し、若い人の負担を減らそう、そういう主旨のよ
うです」
  と金森支配人が答える。
 「それも一理あるな。厚生省は日本もいずれ老齢化社会や少子化社会にとなると
統計学的に予測できたはずなのに何も対策を取らなかった。その付けが回ってきて
301

今の若者の負担となっているからね」
  神田がうなづく。
 「それともう一つ、若い人の党と関係あるかどうか分りませんが、若い人の過激な
発言が話題となっています」
  金森支配人が続ける。
 「若い人の過激な発言?」
  神田が眉をひそめる。
 「ブログで見たんですが、KTB運動です」
 「KTB?」
 「たない(汚い)しより(年寄り)くめつ(撲滅)の略称です。そう言って若者を
あおっているようです。汚い年寄りとは、官僚の天下りとか、脱税している経営者と
か、不労所得を得ている年寄りとか、そういう連中を言っているようですが・・・・・・」
  金森支配人が解説する。
 「年寄が汚いと言ったって、年を取ったら口も手も動きが悪くなって食べ物をこぼ
すし、目が悪くなっているから汚れも見えないから、掃除もしない。だからどうしても
家の中が汚くなる。仕方がないと言えば仕方がないのよね」
302

  まり子は金森支配人の「汚い年寄り」と言う言葉を聴いただけで過剰反応を起こ
し、頓珍漢な事を言う。同居している年老いた母親の事を考えていると見た神田は
まり子の気持ちを察しながらも話をさりげなく本論に戻す。
 「KTB運動も不正を正すという解説を聞くと、彼らの言う意味が分からんでもない
が、スローガンだけが一人歩きしないかな?文字どおりに『汚い年寄りを撲滅する』
っていう意味に取られたら、たいへん危険だ。姥(うば)捨て山伝説と同じだよ。楢
山節考の世界さ」
  神田がやり切れなさそうに話す。
 「楢山節考は貧しさのゆえに孝行息子が70歳の母親を山に捨てざるを得ないとい
う悲しいお話よね」
  まり子が映画を思い出す。

  1956(昭和31)年、姥捨て山伝説を主題とした深沢七郎の小説『楢山節考』が
第1回中央公論新人賞を受賞した。 この本はベストセラーとなり、2年後の1958
年には木下恵介監督、田中絹代、高橋貞二主演で映画化され、当時の映画ブーム
と重なり多くの観客を動員した。
303

  1983年には今村昌平監督、緒方拳、坂本スミ子で再び映画化され、カンヌ国際
映画祭でグランプリを取った。

  戦後の少年少女期を映画とともに育ってきた3人は楢山節考の映画を当然知って
いた。3人ともそれぞれの心に残った映画のシーンを思い出していた。
 「しかし、現代の若者は自分の親を捨てるだろうか?寝たきりやアルツハイマーで
介護に耐えられないと殺すケースはたまにあっても大勢ではないと思うな」
  金森支配人が神田の心配を否定する。
 「どうしてさ?」
  神田が金森支配人の方を見る。
 「だってさ、今のお年よりは年金をけっこう貰っているんだよ。下手すると若い人の
収入より多いかもしれない。そういう親を子供は殺しはしないさ」
  と金森支配人は答えながら、続いて
 「そう言えば、姥捨て山って本来の意味の他に、『老人や定年を迎えた人を食べさ
せるだけのつまらない職場』という意味もあったんだ。そうすると、この朝日のあたる
家はさしずめ姥捨て山だ 」 
304
タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ



第13話 姥(うば)捨て山  その4 ★★★★






















           

         



































































































































前のページへ 次のページへ


トップページへ戻る