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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
た時これらの悪や災いが人間社会に蔓延しないように箱に閉じ込めたんだよ。しか
し、パンドラが夫に頼んで箱を空けさせてしまったので人間は不幸になった、と言う
お話さ」
  神田はここまで話してコップの水を飲み干す。
 「そうか、そうか・・・・・・思い出したよ。話は分ったけれど、どうして木枯社長は民
主党に政権交代させた事をパンドラの箱を開けてしまった、と言うんだろう?」
  金森支配人が神田に訊ねる。
 「これは俺の推測だが、沖縄の密約など今まで自民党政権が国民に隠してきた事
実や、官庁の無駄遣いや不正などの事実がだんだん明るみに出ると、これまで何
も知らされていなかった国民が政治と役所に疑いを持つようになり逆に不幸になる、
と言う意味ではないのか・・・・・・人間、時には知らない方が幸せな場合もあるから
ね・・・・・・」
  との神田の解説に、
 「ふうむ、そう言うわけか?でも我々国民は知る権利があるよね、聞いて気分を悪
くする事もあるけど・・・・・・」
  と金森支配人が呟く。
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 「2人ともそんなに悪い方ばかりに取らないで」
  まり子が2人の掛け合いに割って入る。
 「どうして?」
  金森支配人が不思議がる。
 「みんな何か忘れていない?私の記憶ではパンドラの箱には悪や災いばかり入っ
ていたんじゃないよね?」
 「そうだっけ?」
  神田が思わずまり子の顔を見る。
 「そうですよ、まだ続きがあったでしょ。悪や災いが飛び出してパンドラの夫が慌て
て箱を閉めようとすると、箱の中から『私も外へ出して下さい』と声がするのよ。パン
ドラが『お前は誰なの?』と聞くと『私は希望です』と言って希望が出て来たはずよ」
 「そうだ」
  神田はまり子の話で結末を思い出す。
 「だから人間はどんなひどい目にあっても希望を持って生きられるようになったの、
そんなお話だったような気がするわ」
  とまり子が話を続ける。
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 「そうだ、そんな続きがあったんだが、すっかり忘れていた。パンドラの箱って言う
と、われわれは人間が神との約束を破ると罰が当たると単純に思い込んでいたが、
本当は最後に救いがあったんだ」
  神田はうなづく。
 「まり子さんの話で私も思い出したよ。私もこの物語を遠い昔に読んだか、聞いたよ
うな気がしてきたよ、思い出すのが遅すぎたか、ははは」
  金森支配人が照れ笑いをする。
 「そうよねぇ、私たちがン十年前に覚えた話だもね、年を取ったのよ。それでも頭の
どこかに残っていたからボケてはいないわ、老人力よ」
  まり子が笑う。
 「3人の記憶を集めて一人前か?ほめられたものか・・・・・・」
  神田も苦笑する。
 「私たちの記憶もまんざらじゃないわよ、だからそんなに悲観しちゃ駄目よ。民主党
政権も何か出来ると希望を持たなきゃ」
  まり子がにっこり笑う。
 「そうだね」
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  と神田も同意する。

 「番頭さん、とっくに開店時間は過ぎましたよ」
  そこへ仏壇屋蓮華堂の半井嬢が金森支配人を呼びにやって来た。
 「おっ、そんな時間か、すまん、すまん。それにしても番頭さんはないだろう、半井さ
んもだんだん木枯社長みたくなってきたね」
 「支配人はきれいな姉さんのお店で油を売って遅刻なんかしないの、分る?」
  半井嬢の一言で神田もまり子も笑い出す。
 「これじゃあ、どちらが先輩か分らないわね」
  まり子が金森支配人をひやかす。
 「まいった、まいった」
  そう言いながら、金森支配人と半井嬢は隣の仏壇屋蓮華堂へと帰って行った。
  神田は楽しそうに帰る2人の姿を見送りながら、木枯先輩の言うように、本当に政
権交代をして良かったのか?考えていた。何故かしらこの先悪い事が起きるような
気がしてならなかった。それは動物の本能とも言うような不吉な予感であった。

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第12話 パンドラの箱  その6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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