主党が過半数(241)を大きく上回る308議席を獲得した。今の憲法になって初め
て野党第1党が衆院選で単独過半数を獲得し、歴史的な政権交代を果たした。
公示前300議席だった自民党は119議席にとどまり、結党以来初めて第2党と
なる惨敗を喫し、野党に転落した。
「おい、番頭、またサボっているのか?」
そこへ不機嫌そうな顔をした木枯社長が入って来た。
「あら、木枯社長、お早うございます。今日はまた早いですね。まだ10時前ですよ、
仏壇屋蓮華堂の開店前です」
と金森支配人は取り合わない。
「お前のところはだいたい開店が遅いから客が来ないのだ」
木枯はなおも金森支配人にからみつく。
「朝の9時から仏壇屋に来る人はいませんよ」
278
金森支配人が木枯社長に口を返すと、流しにいたまり子が振り返り、
「そうよ、このへんの店はだいたい10時か11時開店ですよ、社長だって知ってい
るでしょ?」
と金森支配人を援護する。
「そうだったか?」
木枯はとぼけて自慢のちょび髭をなでつける。
「どうしたんですか、社長?今日はいたくご機嫌斜めね」
白いエプロン姿のまり子が木枯社長にいつものコーヒーを持ってくる。
「どうしたもこうしたもない、天下がひっくり返ったんだぞ?」
木枯はじろりと2人の顔を見る。
「政権交代の事ですか?私達も驚いているところですよ」
金森支配人が答える。
「まさか、お前も民主党に入れたんじゃないよな?」
長い間自民党を支持してきた木枯が金森支配人の顔を睨みつける。
「入れましたよ、自民党があまりにもだらしないから・・・・・・自民党にお灸をすえて
やろうと思って」
279
金森支配人が力なく答える。
「そういう連中が多いからこういう結果になるんだ、うちのおっかと同じだ。みんな
ちょっとだけ懲らしめてやろうと思った結果がこれだ。瓢箪から駒が出たんだ、それ
がどういう結果を招くか誰も分っていないんだ」
木枯は憤懣やるかたない様子である。
「木枯先輩、それは仕方が無いですよ。みんな今の政治にうんざりしてるんです
よ」
いつの間にか神田が店に入って来た。
「神田、お前もか?」
木枯が神田の顔を見て眼を剥く。
「私も民主党に入れましたよ。だってこれだけ国民が難儀しているのに、ここ4代
の自民党の首相はあまりにも無策ですよ。最後の麻生首相はとりわけひどかった。
日本はリーマン・ショックで株価は暴落、製造業も小売業も売れ行き不振で大赤字、
給料は上がらず失業も増加、一方で医療費や教育費がかさみ、まったく良い事が無
いですよ。自民党政権の当事者能力が無いとしか言いようがありません・・・・・・」
神田は一気にまくし立てる。
280
![]() ![]() |
![]() |
|
|||||||||||