きれいな花の写真
忘れえぬ猫たち
デジカメ千夜一夜
かんたん酒の肴
おじさんの料理日記
喜劇「猫じゃら行進曲」
小説「眠れない猫」
ベトナム四十八景
デジカメ あしたのジョー
の子猫に癒されるのか、サンと遊んだり、その可愛い動きをじっと眺めていた。
子猫のいる喫茶店「朝日のあたる家」は近隣の喫茶店より料金が安いと言う事も
あり、年寄りや若者にも好感を持たれ、口コミで客が少しずつ増えていった。
開店から1週間後の土曜日の午後、猫じゃら新鮮組の三鉢麻耶と親友の神野由
香が店にやって来た。神田が2人に知らせたのである。
「お邪魔しまーす」「すてきなお店ね」
と2人が挨拶する。2人は昨年夏のキャンドルナイトでまり子とは知り合いになっ
ていた。
「2人とも、ありがとう、よく来てくれたわ」
そう言いながらにっこりと微笑む高木まり子の腕の中には生まれて間もない子猫
サンがいる。
「まあ可愛い、この子猫、どうしたの?」
猫に眼のない麻耶がまり子に尋ねる。
「開店の日の朝、店の横に捨てられていたのよ」
まり子がその時の情景を2人に語って聞かせる。
253
「それは可哀想に」
三鉢麻耶は思わずまり子の腕からサンを譲り受け、サンの顔を覗き込む。麻耶は
別れた父親に似て猫が大好きだが、潔癖症の母親のせいで未だに飼えないでいる。
「サンて言う名前は息子と間違うわね」
由香が麻耶の傍らで呟く。
「それが偶然男の子みたいなの」
2人にオレンジジュースを注ぎながらまり子が笑う。
「どれどれ」
麻耶がそう言いながら子猫の股間を覗き込むとちっちゃなシンボルが見える。
「本当だ。由香、見てご覧」
麻耶は由香の目の前に差し出す。2人とも高校2年生になり大人びてきたが、サン
を前にして子供に帰ったようである。
「女が3人寄ると姦しいか?」
その時、紙に包まれた大きな額を抱えた北山先輩が顔を出す。
「あら、北山さん。こちらは猫じゃら新鮮組の親衛隊、三鉢麻耶さんと神野由香さ
ん、こちらのおじさんはこの店をデザインしてくれた北山修三さん、私の元職場春北
254
商会の先輩よ。よろしくね」
「ひょっとして猫じゃら新撰組のTシャツのマークを作った人?」
麻耶が北山に訊ねる。
「そう」
まり子は北山に代わって答えながら、
「若いお2人はサンのシンボルを見て喜んでいるのよ」
と北山に騒ぎの理由を解説する。
「そうかい、動物のシンボルなんて、犬か猫でも飼っていないとあまり見る機会もな
いよね」
「そうですよ。でもこうして見ると、とっても可愛いものよ」
麻耶が笑う。
「サン、お前は立派な男になるんだよ」
由香が突然真面目な顔をしてサンに語りかける。
「それはどういう意味?」
北山は思わず由香に訊ねる。
「どうも最近の男の子は元気が無くってね、草食男子ばっかり」
255
由香は高校の男子を思い浮かべているようであった。由香の言葉はさらに続く。
「はっきりしないんだよ、何を聞いても・・・・・・イエスなのかノウなのか?どうなって
んですかね」
「女の子が元気になり過ぎたんじゃないか?どこの家庭でもお婆ちゃんやお母さん
が元気だろう?」
北山は椅子に腰掛けまり子の入れてくれたコーヒーを飲む。
「北山家でもそうですか?」
「うちはかみさんと娘2人で、お婆ちゃんが生きていた時は4対1さ、多勢に無勢で
おとなしくしていたよ。ところで神野家では?」
「うちは上に兄が2人で、男供は威張っているよ」
「そりゃあいい。今や夫と妻の立場が逆転したのさ。昔は月給もボーナスも現金で
夫から妻へ直接渡していたのが、今では銀行振り込みになって夫のお小遣いも妻か
ら貰うようになってしまったんだよ。」
「そんな事が女が強くなった原因?」
「そうさ、それだけではないよ。これはおじさんの私見だがね、一つは石炭ストーブ
から石油ストーブになり、最近の家から煙突がなくなった事さ」
256
第11話 猫曼荼羅
(ねこまんだら)
その4★★★★
前のページへ
次のページへ
トップページへ戻る