きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  ようやく店内の喧騒が収まった頃、店のどこかでかすかに子猫の鳴き声がする。
 「まり子さん、猫の泣き声がしない?」
  仏壇屋蓮華堂の店員、半井嬢が狭い店内で聞き耳を立てる。
 「何?猫?」
  店に残っている神田や金森や北山も耳をすます。
 「あっ、そうだ、忙しくてすっかり忘れていた」
  まり子は慌てて右奥のスチールのロッカーへ駆け寄り、そっと扉を開ける。中では
先ほど拾った子猫がまり子のコートとキッチンタオルに包まれ啼いていた。
 「ごめんね、さびしかったでしょ?」
  とまり子はそっと腕の中に抱き上げる。
 「あーら可愛い、どうしたの?」
  半井嬢はじめみんながまり子の腕の中の子猫を覗き込む。
 「それがね・・・・・・」
  まり子は早朝の出来事をみんなに話して聞かせる。そのうち子猫を半井嬢に預け、
冷蔵庫から牛乳を取り出し、お洒落な牛乳沸かし器で温め始めた。
 「それじゃ、まり子さんが飼うの?」
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  半井嬢がまり子の顔を見る。
 「開店に合わせ届けてくれた神様か仏様の贈り物だもの、育ててやらなくっちゃ」
  まり子は中指以外の根元をゴム輪で縛った透き通ったポリの手袋を取り出す。そこ
に温まった牛乳を注ぎ、口を輪ゴムで閉じる。針穴を開けた中指の先から牛乳が少し
ずつ滴り落ちる。まり子は子猫を半井嬢から取り戻し、子猫の口に中指の先をあてが
う。子猫は母猫の乳房をまさぐるように飲み始めた。
 「高木さんもうまい事考えるもんだねぇ」
  金森支配人が感心する。
 「開店前にも試してみたんですよ、そうしたらうまくいったのよ。我ながらいいアイデ
アだと思って・・・・・・よほどお腹が空いていたのかたくさん飲んで寝たのに、また飲ん
でいる」
  まり子はいとおしそうに子猫にミルクを与えている。
 「名前はつけた?」
  半井嬢が聞く。
 「朝日のあたる家だから、ライジング・サンにしようかなと思ったけれど、これじゃあ
長いのよね。だから簡単にサンにしたの、ねぇ、サン」
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  まり子は腕の中の子猫に話しかける。
 「サンか?それは分りやすくて良い名前だ。そうだ、開店祝いはサンのベッドキャリー
にしよう。知り合いが持っていたが、カバーをつければキャリーになるし、カバーを外す
とベッドになるのがあるよ。それならそのままこの店に置けるし・・・・・・」
  神田がまり子に言う。
 「それはいい。私も一口乗せてください」
  金森支配人が神田に言うと、
 「私も」「私も」と北山先輩と半井嬢が同調する。
 「そんなに高い物じゃないけど・・・・・・そこはみんなの気持ちだからそうしますか」
  神田がすんなり了解する。
  「それじゃあ、私が近くのペットショップを案内するよ。神田さん、行こう」
  金森支配人が神田を誘う。
 「何だか悪いわねぇ、それでなくとも散財をかけていると言うのに・・・・・・」
  まり子が恐縮しながらみんなに頭を下げる。
 「いいって事よ。この猫はみんなのペットみたいなものさ」
  金森支配人と神田が店を出て行く。
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 「私も店に戻らなきゃ、サンまた来るね」
  半井嬢も本業に戻る。
  店内はまり子と北山先輩の2人だけになった。
 「店の名前に猫と言う言葉を使わなかったのに、くしくも開店の日に猫が届くとは?
これも何かの因縁だね、まりちゃん?」
  北山先輩がまり子にそう言いながら何かを考えている様子であった。

  開店から1週間があっと言う間に過ぎていった。
  この間に、朝日のあたる家の開店を祝って様々な人たちが店を訪れた。まり子が
元勤めていた春北商会の上司・同僚・後輩、母親を初めとする親戚縁者、まり子の
高校・専門学校の友達などである。
  もちろん、神田や金森支配人や半井嬢の賢明な携帯メール作戦で彼らの知人は
もとより、猫じゃら工房のイベント参加者なども次から次へと現れた。みんな店よりも
店内をわがもの顔に闊歩する可愛い子猫・サンに魅了されていた。
  初めて来た客も店内をちょこちょこ駆け回る子猫サンに眼を見張った。中には「飲
み食いする店に猫が?」と眉をかしげるお客もいたが、ほとんどの客はたった一匹
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第11話 猫曼荼羅(ねこまんだらその3★★★






















           

         



































































































































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