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デジカメ あしたのジョー

    
 「おい、神田、立川はまだ来ないのか?」
  ちょび髭をはやした木枯猫じゃら工房社長が神田を睨みつける。
 「立川社長は今タクシーから降りました」
  駅前へ通ずる早世川沿いの通りを見ていた神田が答える。
  今日は2009年5月2日、まり子の朝日のあたる家の開店日である。店の看板の
右手にはくす玉が吊るされ、入口の両脇には大きな花輪が飾られている。贈り主は
猫じゃら小路商店街振興組合理事長立川完治と猫じゃら工房社長木枯福三である。
  新装の塗装や木屑の匂いが漂う猫じゃら小路1丁目界隈には開店を待ち受ける
関係者がテープカットをすべく集まっていた。
  そこにいるのは、店主の高木まり子と店を設計デザインした北山修三、木枯社長
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と神田の猫じゃら工房コンビ、黒川猫じゃら小路商店街振興組合事務局長、金森仏
壇屋蓮華堂支配人、ひちょり事ちょん月食堂の若旦那佐藤、高橋メンズ・ジーンズ社
長、佐々木サッポロジャガービールの支配人などなど、そうそうたる面々である。
  時は午前9時20分で、たまに行き交う人もこの賑わいに一瞬立ち止まるが、喫茶
店の新規開店と分るとあまり関心がないのかさりげなく通り過ぎて行く。
 「立川、遅いぞ」
  と木枯は立川に声をかけるが立川は意に返さず、
 「まりちゃん、今日は開店おめでとう」
  とまり子の方に寄って行く。
 「さあ、役者が揃ったからテープカットを始めるぞ」
  木枯社長は2人の様子を見ながらさっさと正面入口に向う。
 「まだ5分あるじゃないか、あい変らずせっかちな奴だ」
  テープカットは午前9時30分である。立川はそう呟きながら木枯の後を追う。テー
プの両端は金森支配人と半井嬢が持ち、左から立川理事長、店主高木まり子、木
枯社長がハサミを持って並ぶ。
 「みなさん、準備は出来ましたね?それじゃお願いします、どうぞ」
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  神田事務局長の掛け声で3人がハサミを入れる。赤いテープがはらりと切れる。
同時に神田が看板の右上に吊るされたくす玉のひもを引き、赤や白の紙ふぶきが
宙に舞う。
 「まりちゃん、開店おめでとう」「おめでとう」
  みんながまり子のところに駆け寄る。
 「ありがとう、皆さんのお陰です」
  まり子はあたかも自分の結婚式のように上気した顔でここまで応援してくれたみん
なに礼を言う。
 「神田、来賓の挨拶はいいのか?」
  木枯は神田の顔を見る。
 「誰が来賓さ?」
 「俺だって、立川だっているだろう?」
 「みんな仲間内でしょ、身内の挨拶なんて誰も聞きたくないよ」
  神田はここまで言ってから、
 「みなさん、何もありませんが、店の奥にケーキとコーヒーを用意しています。召し上
がっていって下さい」
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  と参加者を店内へといざなう。
 「あいつ先輩に向って何て奴だ」

  木枯は立川に聞こえるように言う。
 「いいじゃないですか、今の人達は回りくどいのが嫌いなんですよ」
  立川も挨拶なんかする気は無い。
 「そうかなあ・・・・・・仕方が無い、ケーキでも食うか」
  木枯はぶつぶつ言いながら、店の中に入って行った。
 
  狭い店の中にはリボンのついた生花や果物など贈り物がいたるところに飾られ、
そこに定数以上の人数が入るからまるで満員電車の様相を呈している。木枯と立川
は人波を掻き分けようやく奥にたどり着く。そこには縁にひらひらのついた白いエプロ
ンを着たまり子と半井嬢が立っていて来客にケーキとコーヒーを配っていた。
 「おっ、立川、見たか?これはまるで大正時代のカフェだ、竹久夢二の世界だ。い
いねぇ・・・・・・そうだ、お前の店でも女性軍にこれを着せたら?」
  木枯の鼻の下が伸び、目じりが下がる。
 「何を言うんだ。仏壇屋蓮華堂の店員がこんな格好で仕事出来るか」
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第11話 猫曼荼羅(ねこまんだら)  その1 ★






















           

         



























































































































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