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デジカメ あしたのジョー
  4月に入って2008年度の経済指標が次々と発表された。
  日本の新車販売が前年度比11.6%減の470万台と28年ぶりに500万台を割
り込み、ピークの90年度の780万台の6割の水準となった。
  2008年度の貿易収支も28年ぶりの赤字となった。年度前半は原油価格の高騰
などで輸入額が増え、後半は世界同時不況で輸出額が激減したためである。
  2008年度の倒産は1万3234件、上場企業では45件で戦後最大となった。百
貨店の売上高も前年度比6.8%減の7兆1741億円で下落幅が過去最大となっ
た。スーパーの売上高も1.7%減で12年連続で前年度割れとなった。
  唯一明るい話題は、4月16日にイチローが日米通算3086安打を記録し、張本
選手の持つ3085安打の日本プロ野球記録を更新した事である。

  4月30日、札幌は快晴でぐんぐん気温が上がる。前日の天気予報によれば最高
気温は23℃、桜が満開になるとの予想であった。
  この時にはパーラー朝日のあたる家の工事はすべて完了していた。
 「素晴らしい出来映えね、ありがとうございました」
  改装に完成まで立ち会ってくれた北山先輩にまり子がお礼を言う。神田も金森支
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配人ほか仏壇屋 蓮華堂の従業員も感心して見ている。
 「保健所の営業許可も出ていよいよスタートですね」
  北山先輩も嬉しそうである。
  赤いトタン屋根には白色で「パーラー朝日のあたる家」と書いてあり、遠くからも人
目を引いた。
  北山先輩のデザインは全体に赤と白を基調にしており、元気と清潔さを象徴して
いた。正面と左側のガラス戸には小さな猫のシルエットをくりぬいたビニールシート
を貼り付けてあり、親しみやすさも表現していた。
 「これじゃあ、本家の仏壇屋 蓮華堂の影がうすくなるな」
  金森支配人が笑いながら言う。
 「あはは、あんたの髪の毛と同じさ」
  神田が冷やかす。
 「また他人の髪の話を・・・・・・」
  金森支配人が神田を睨みつける。
  お客は正面と左手とどちらからでも入れるようになっており、正面から入ると右手
の壁に沿って細長いカウンターが続いている。その前に小さい背もたれがついた丸
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い椅子が五つ並び、客は壁に向って座る事になる。目の前の壁に手作りの小さなメ
ニューが二つ貼ってある。天井から薄い棚が二つぶら下がっており、ここにこれまで
高木まり子が蒐集した猫グッズを飾る事になっている。
  客が振り返ると、南北に走る幹線道路があり、早世川を埋め立てた大きな空間が
広がっている。真夏には左側のガラス戸を空けて、歩道に椅子をいくつか並べる構
想である。
  店の突き当たりには小さな水周りがあり、ミルクやコーヒーを温めたり、使用済み
のコップを洗えるようになっている。左手前には冷蔵庫が用意してある。
 「可愛いお店、お姉さん、時々お手伝いに来てもいい?」
  半井嬢がまり子に話しかける。
 「本業が暇な時だけよ」
  まり子がにんまりと笑う。  
  翌5月1日は猫グッズ・飲料水・食器など荷物の搬入である。それらを置くべきとこ
ろに置かなければならない。まり子と神田と金森支配人は開店を明日に控え、夜遅く
まで準備していた。

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  開店の5月2日、この日は朝から快晴で最高気温も20℃を越える予報であった。
  まり子は開店2時間前の8時に店の正面に立っていた。新しく出来たばかりの店
には左手からまばゆいばかりの朝日が当たっていた。
 (いよいよ念願の自分が開店するのだ、みんなのお陰であっと言う間に出来たわ)
  まり子の胸に熱い思いが込み上げて来る。
  その時である。東側から子猫の啼く声が聞こえてきた。まり子は左側の歩道の方
へ行って見る。何とそこに生まれたばかりの子猫が震えていた。
 「捨て猫?可哀想に」
  まり子は思わず子猫を抱き上げる。白地に黒とネズミの三毛猫だった。子猫はま
り子を母親のように思い必死にしがみついて来る。
 「心配しなくてもいいわよ、今日から私がお母さんよ」
  まり子は子猫の喉を撫でてやる。
 「あんたは神様が開店に合わせ届けてくれた贈り物よ、招き猫よ。これからもよろし
くね」
  まり子はそう言いながら朝日のあたる家に入って行った。

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第10話 朝日の当たる家  その6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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