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デジカメ あしたのジョー

    
 「あれ、木枯社長、どうしたの?」
  木枯先輩の突然の出現に神田がびっくりする。木枯はいつも来るはずの月曜日
3月23日には出勤してなかった。しかし木枯は気まぐれな人だからと神田はその
わけを確かめてもいなかった。その木枯が2日後の水曜日3月25日に現れたの
である。時は2009年になっていた。
 「今日、高木まり子が俺に用があるってさ、間もなく来るよ」
  木枯はトレードマークの紺のコートと山高帽を脱いでコート掛けに掛ける。コート
のポケットからスポーツ新聞を取り出し、机の上に置く。第一面には「WBC日本が
連覇」と大きな活字が躍っている。
 「何の相談ですかね?」
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 「さあてね」
  神田が訊ねるが木枯の目はスポーツ新聞のイチローの活躍を追っていた。

  しばらくして高木まり子がいつもの赤いダウンジャケットを着て現れた。
 「ちょっと下へ行ってます」
  神田は気を利かせて階下の仏壇屋 蓮華堂の金森支配人のところへ行く。
 「あれっ?神田さん、今まりちゃんが上がって行ったでしょ?」
  金森支配人が呟く。
 「うん、2人で何か話があるようだ」
  神田が話すと、
 「今、まりちゃんが上に上がる前に左脇の空き店舗の事を聞いて行ったよ」
  金森支配人がそう言って神田の顔を見る。
 「この店の横の靴屋の跡かい?」
  仏壇屋 蓮華堂の店の左側には小さな空き店舗があった。いかにも後から増設し
たと思われる片屋根の細長い店舗は元靴屋だったらしく、看板やガラスの書き文字
がそのまま残っていた。物置のように壁に張り付いた空き店舗が本体の仏壇屋 蓮
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華堂をよりみすぼらしく見せていた。神田が初めて仏壇屋 蓮華堂を訪れた時から、
この残骸をいつまでこのまま
にしておくのか、神田は気になっていた。
 「何だろうな?」
  神田が首をかしげていると、2階から木枯の大声がする。
 「神田、上がって来い。番頭もいっしょに」
 「親方がお呼びですよ、それも私まで。何でしょうね?」
  金森支配人が神田といっしょに腰を上げる。

 「番頭、左手の靴屋の跡、所有権は仏壇屋 蓮華堂にあるのか?」
 金森支配人が座る前に木枯が話しかける。
 「そうです。20年前、立川社長の甥っ子が若者向けの靴屋をやりたいって、増設し
て貸したんですよ」
 「どうして20年前だ?」
  木枯が金森支配人を睨みつける。
 「だって大好きな美空ひばりが亡くなった年ですから、良く覚えていますよ」
  金森支配人が胸を張って答える。
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 「おそれおおくも昭和天皇が崩御された年だぞ、番頭は昭和天皇より美空ひばりの

方が記憶にあるのか、けしからん」
  木枯が金森支配人を非国民であるかのように睨みつける。
 「おじさん、そこは年代の差だから」
  まり子が金森支配人の立場に立つ。
 「若いもんは困ったものだ、それで?」
 「初めはそこそこ売れたんですが、そのうち採算が合わなくなって店を畳みました。
その後は誰も借り手がなくてあの通り空き家のままです」
 「そうか、それでは立川に話をすれば良いのだな?」
 「何を?」
 「あの空き家を貸せってさ」
 「木枯先輩が借りるの?」
  今度は神田が口を出す。
 「俺じゃないよ、まり子だ」
 「まりちゃんが?」
  神田と金森支配人が同時に声を上げ、まり子の顔を見る。
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第10話 朝日のあたる家  その1 ★






















           

         


























































































































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