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デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  その言葉に神田は不吉な予感を覚える。弟は四つ年下で道内最大手の百貨店
角井今井の函館店に勤めていた。
 「ああ、今会社に1人でいるよ」
 「そうか、良かった、お義姉さんには聞かれたくないからね・・・・・・兄貴、新聞・テレ
ビでご承知の通り、このところ角井今井百貨店が経営がずっと思わしくなくてさ」
  三郎はここまで話してからぐっと一息つき再び話し始める。
 「ここだけの話、角井今井が年明けにも経営破綻して民事再生法の適用を申請し
そうなんだ」
  弟は他人には言えない秘密をようやく吐き出した様子である。
 「そりゃたいへんだ。函館店の営業損益は黒字だとお前はいつも威張っていただろ
う?」
 「函館店はそうなんだが、他の店の赤字がひびいていてね。何年も前からそうとう
合理化をしているんだが、このご時世で売上が減るばかりで全体が焼け石に水の
状態さ・・・・・・もうどうにもならない状況に来ているよ、俺、困っちゃった」
 「だって、閉店と決まったわけではないだろう?黒字の店舗まで閉店するとは思え
ないが・・・・・・」
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 「そうは言っても角井今井本体が消滅しちゃったらどうなるか、この函館店も分らん
よ」
 「事業譲渡して存続という術(すべ)もあるんではないのか?困ったけれどじっと成
り行きを見守るしかないんでないか?今ここでお前1人であがいてもどうにもならな
いさ」
 「そうかな?こんな話、嫁さんにも言えないし・・・・・・俺参っちゃうよ」
  大助も函館にいる母親の事で困っていた。
  今年80歳になる母親三根子は20年前に大助達の父親である重夫に先立たれ、
大門町の生家に1人で住んでいた。母親三根子は生まれ育った函館を離れたがらな
いのである。長男の大助も次男の次夫も自分たちとの同居を勧めたが、転勤族の彼
らに同意しない。
  そんな母親の気持ちをおもんぱかってか、三男の三郎は函館の就職先を探した。
そして角井今井百貨店の函館店に就職したのである。結婚後も大門町の神田家の
生家に住み着き、母親の面倒を見ていた。
  その母親も寄る年波に勝てず、数年前から病気で介護が必要となり、共稼ぎの嫁
の手に負えなくなった。その結果男の3兄弟が相談し合い3年前から母親を介護施
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設に入れたのである。
  弟三郎夫婦には時々母親の様子を見てもらう事とし、弟三郎の費用負担を軽くし、
残りを長男の大助と次男の次夫で負担していた。弟三郎が失業すると大助の負担が
さらに増える事になる。再就職したばかりの大助にはたいへんである。
  それでなくとも次男の次夫の送金が滞っていた。三郎にはまだ話していないが、次
夫がこの秋に失業していた。次夫は建設機械の大手大松に勤めていたが北京五輪
施設の完成時点で会社の機械の輸出が激減しリストラされたのである。
  次夫の失業に三郎の失業が加わると彼らの家庭も深刻だが、大助の家計も大変
な事になるはずだった。
 「みんな一流会社に勤めていたのに、なんでこうなるのかな?」
  思わず神田の本音が出る。
 「兄貴、何か言った?」
  弟三郎が訊ねる。
 「いやいや、ついていないって話さ」
 「本当だよね、でも兄貴に話して俺も少し気が晴れたよ。慌てずにじっとしているし
かないか・・・・・・また電話するよ。兄貴、今の話くれぐれも内緒にね」
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  そう言って弟は電話を切った。
 「何で、年末になるとこんな話になるんだ。年末だから出るのか?」
  神田はため息をつく。

  12月30日、神田が自宅にいると木枯先輩から電話が入る。
 「ご存知よりと言って変な猫の人形を贈って寄こしたのはお前だな。何だこの睨ん
だ猫は?」
 「ははは、先輩そっくりでしょ、災いを追い払う猫です。ひっくり返すと奥さんに似た
招き猫になっています。良いお年をお迎えください」
  そう言って神田は電話を切る。
  後1日で2008年も終わりである。家庭には妻と娘が2人、女が3人もいて年越し
の準備を手伝う必要はない。神田は何もすることがなくテレビをつける。
  画面では歳の瀬を控え、職も住まいもない派遣切れ社員がどうやって年を越すの
か?国や地方自治体は何をすべきか?当事者をはじめ関係者が大騒ぎをしていた。


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第9話 追い出し猫  その6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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