きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

 「今度は番頭か?」
 「番頭じゃないです、今や支配人と呼ぶ時代です」
  金森支配人が口を返す。
 「おんなじだよ、よっぽど暇なんだな、お前の店は?」
 「社長、そう言わずに・・・・・・ところで今の話ですと、この猫じゃら小路に飲食街が
新たに出来るんですって?蕎麦屋の川幅は店を畳んだけれど、ちょん月食堂やジャ
ガービヤホールなど飲食店が山ほどあるのに・・・・・・こりゃあ、ちょん月食堂の若旦
那もたいへんだ。猫じゃら小路商店街振興組合も酷な事しますね」
 「番頭、何だって?」
 「実はですね・・・・・・」
  金森支配人と神田はこれまでの経過をかいつまんで木枯社長に話して聞かせる。
 「わはは、そりゃお前さん達の早とちりだよ」

  木枯社長が楽しそうに笑う。

 「早とちり?」
  2人は合点が行かないように木枯社長の顔を見る。
「そうさ、黒川事務局長がどう言ったか知らんが商店街振興組合がそんな事するわ
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けないだろう?あれは西宝プラザの支配人森繁が企画した事さ、ゲームセンターの
経営が思わしくないんで商売替えするのさ。何でも12月19日(金)に道産食材売り
場の『もぐマート』をオープンし、来年2009年2月5日(木)に道産食材を使った飲食
街『もぐイート』をオープンするそうだよ」
 「そうだったのか」
  神田と金森支配人が肩を落とし、思い込みを反省する
 「それでも、ちょん月食堂も影響を受ける事は受けるよな・・・・・・」
  金森支配人はなおも佐藤の若旦那の心配をする。
 「良く考えてみろ、商店街振興組合はアーケードや無線LANなど組合員全員が利
益を享受するものや負担するものを決めるところさ。資本主義の世の中、誰がどこで
どんな店を出そうと勝手さ、そこにいちいち組合は干渉しないよ。競合店が切磋琢磨
してこそ客を呼べると言うもんさ」
  金森支配人と神田は返す言葉もない。
 「そんな馬鹿馬鹿しい話に付き合っておれん、俺は忙しいんだ、神田、俺は帰るぞ」
  と木枯社長はさっさと帰って行った。
 「ふーっ」
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  残された3人はため息をつく。
 「ひりょりの事どうしょう?」
  金森支配人が神田の目を見る。
 「俺が夕方彼に会って話して来るよ、2人とも帰りな」
  キツネにつまされたような2人は仏壇屋 蓮華堂へ戻って行った。

  夕方になり神田が7丁目のちょん月食堂へ行って見ると、店の前で2代目のご主
人が独りで寂しそうに煙草を吸っていた。店の中は大勢の客がいるらしく大声が外
まで聞こえて来る。
 「こんばんわ、どうやら満杯のようだね」
 神田がお爺さんに声をかける。
 「神田さんか、今日はこの店に全道を放浪した時の仲間が集まっているのさ、あれ
は誰とでも誠心誠意付き合ってきたから、彼らがサッポロへ出て来た時は立ち寄る
のさ」
 「それは良い事じゃないですか?」
 「それは良いんだが、みんなに『建物と食べ物は昔のままが良い』とか何とか言わ
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れてその気になってね、これからますます大変になるのに・・・・・・あいつはこの店を
どうするのか?さっぱり分らん」
  どうやら爺さんは西宝プラザの動きはとっくに知っているらしい。
 「彼は本当にお爺さんの店を継ぐんですか?」

 「他に何も出来ないから継ぐんだと思うんだが、あいつは何時まで経っても子供の
ままさ」
 「そんな事はないですよ、りっぱにやっていますよ」
  神田が慰める。
 「あいつは人は好いんだが、堪え性がないんだ。うまく行っている時は良いんだが
ちょっとつまづくとすぐに投げ出すんだ、それが心配でね」
  そう言って爺さんはため息をつく。
  神田は若い時の自分を指摘されているようで胸が痛かった。
 「彼は忙しそうだから、また来ます」
  神田はそう言って踝を返す。アーケードの端から見える空はまだ明るかった。

 

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第8話 さまよえる子羊  その6★★★★★★






















           

         
































































































































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