きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
  神田はご幼少の頃ラジオでこのCMを聞いていた。
 「お前も知ってるか?歳だな」
 「そりゃそうですよ、あんたの一回り年下ですから」
 「俺の親父が良く言っていたよ、昭和大恐慌の時は銀行の取り立て騒ぎが起こり、
街中職を求める失業者の群れで一杯だったって・・・・・・客が親父の魚屋に来ても、
見ているばかりで買う金がないんだって」
 「でも、何となく日本の今の状況も似てきてますね」
 「そうだよ」
  木枯はもともと怖そうな大きな目をさらにむく。
 「何をそんなに深刻に話しているの?」
  お茶を持って来た半井嬢が訊ねる。
 「お、ありがとう。今、日本の将来を憂いているのさ、何がお坊ちゃま首相だ、庶民の
暮らしも分らないで、このままでは日本も沈没だ、ボッチャンだ」
 「ははは、面白い」
  半井嬢がころころと笑う。
 「そうか?そんなに良かったか?」
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  木枯社長は途端に怖い顔の相好を崩す。
 「本当に最近は困っちゃいますね、うちの店も高い仏壇は売れないですし・・・・・・」
  半井嬢は仏壇屋 蓮華堂の売れ行きを心配する。
 「そうだね・・・・・・」
  そう言いながら神田は何かを思い出したように、
 「先輩、何か聞いていますか?この商店街が何かをやるって?」
  と木枯社長に訊ねる。
 「何だ?」
 「この商店街が何か新しい事を始めるんだって・・・・・・」
 「何か新しい事を?」
  木枯社長は腕を組んでしばらく考えていたが、思い出したらしい。
 「6月のキャンドルナイトがあった時、立川と俺達がちょん月食堂で前祝をやったろ
う?その時お前達は後からやって来たんで知らないだろうが、立川は喜んでもいた
がキャンドルナイトの盛況が恐ろしく応えたらしい。『猫じゃら工房にばかり任せてお
れない、猫じゃら小路商店街振興組合自体が何かしなければ』と言っていたよ」
 「それは6月にお礼に行った時私も聞きました。それで何をするんでしょう?」
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 「そうだ、ついこないだ会った時には『5丁目の西宝プラザで何かやる』って言ってい
たな」
 「ゲームセンターがあるところか?そこで何を?」
  神田が先輩に訊ねる。
 「ちょっと待てよ・・・・・・半井さん、口の中に食べ物を入れて音を立てて食べるのは
何と言ったっけ?」
 「もぐもぐ?」
 「そう、もぐもぐの『もぐ』だ。名前は『もぐ』とかと言ったな、道産食材を売るのが『もぐ
マート』、道産食材を使った料理を食わせるのが『もぐイート』とか言ってたな・・・・・・
何で最近は日本語を使わないで英語ばかり使うのかな?ほら大通で年に何回か北
海道じゅうの特産物を並べてやっているだろう、あの常設店みたいなもんらしいよ」
 「ふうん」
 (黒川事務局長が佐藤の若旦那に言っていた事はこの事だったのか)
  神田が思いもつかない展開にため息をつく。
 「だって、6丁目に猫じゃら小路市場があるのにね?」
  半井嬢が疑問を挿む。
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 「昔は9丁目にも市場があったんだよ。残った6丁目の市場も歯抜けで閑古鳥が鳴
いてるよ、俺の親父が魚屋を張っていた頃は商店街も職住接近で、店の裏や2階に
住んでいたのさ。そしてお互いのお店を利用したもんさ・・・・・・今はみんな遠くに住ん
でいてそこから通勤だから商店街で食料品を買わなくなったのさ。一般の人も猫じゃ
ら小路に市場がある事さえ知らないのでないか?」
  木枯社長が商店街の現況を嘆くと同時に、過ぎ去った在りし日の昔を懐かしんで
いる。
 「そうですね。みんな知らないわよ」
  半井嬢がうなづく。
 「半井さんはどうしたんだ?何か面白い話でも?」
  お茶を出しに行った半井嬢がいつまでも帰って来ないので階下から金森支配人が
やって来た。
 「今、木枯社長に聞いたの、5丁目の西宝プラザに道産食材店と飲食街が出来るん
だって・・・・・・」
 「何々?」
  今度は金森支配人が腰を下ろす。ミイラ取りがミイラになる。
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第8話 さまよえる子羊  その5 ★★★★★






















           

         




































































































































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