きれいな花の写真

忘れえぬ猫たち

デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

 「もう80歳さ」
 「そうしますとおじいさんは2代目?お若くて60代後半かと思いました」
 「60代後半か?それはありがとう」
  お爺さんはうれしそうにうなずき神田にお茶を出す。
 「もうこんな歳だがなかなか引退できなくてね」
 「りっぱな後継ぎの若旦那がいるでしょう?」
 「銀之助かい?あれは孫だよ。あいつは後を継ぐ気があるのかどうか・・・・・・あい
つは嫁ももらわずいつまでもふらふらしているよ」
  2代目がそう言った時、Tシャツ・ジーパン姿の佐藤君が岡持ちをぶら下げて帰っ
て来た。
 「あれ?猫じゃら工房の神田さんか、何かご用?」
 「こないだは応援演説ありがとう、助かりました。私もこの店は学生時代に来たきり
だったから久し振りにやって来たのさ。懐かしいねぇ、ほんと・・・・・・そうだ懐かしつ
いでに焼きそばを食べてみよう」
 「焼きそば一丁!」
  佐藤銀之助が声を揚げると2代目の爺さんがさっと腰を上げる。
173


 「おや、佐藤君が作るんでないのか?」

  神田が佐藤君の顔をみやる。
 「昔懐かしの焼きそばは爺さんしか作れないのさ」
  佐藤君がそう言うと、
 「爺さんじゃないぞ、まだりっぱな現役だ。まだまだお前なんぞに負けないぞ、銀之
助」
  奥から元気な声が帰って来た。
 「あれだもん、いつまで経っても半人前呼ばわりさ」
  佐藤君が口を返す。
 「半人前は半人前さ」
  2代目がふたたび孫に言い返す。
  神田は2人の掛け合いを楽しく聞きながら、豚の三枚肉とキャベツが入り、アオサ
と紅生姜の千切りがかかった昔懐かしい焼きそばを味わった。

  現在のちょん月食堂はお爺さんの親佐藤千之助が今から70年前に始めたもの
である。若い時に身一つで小樽からやって来た千之助は
屋台から身を興し、身を
174


粉にして懸命に働き、その元手を基に掘っ立て小屋のような食堂をこの地に構え
た。今の2代目が10歳の時であった。その後も順調に客を増やし40年前には今の
食堂に建て直したが、苦労がたたり急逝した。息子の万之助は洋服屋に勤めてい
たが辞めて店を継いだ。それが今の爺さんである。
  今のご主人の息子の金之助は
口下手で食堂商売を嫌い、家の手伝いはまったく
しなかった。彼は手に職をつけようと若いうちに家を出て仏像鋳造で名高い高岡市
の鋳造屋に弟子入りした。当然親子の断絶があり、故郷のさっぽろの食堂の敷居を
2度と跨ぐ事はなかった。
  その息子、銀之助は景気に左右される親父の職業を見て堅実な仕事を選んだ。
高岡市の職員になったのである。 しかし、佐藤君は市役所に5年間勤めるうちに、
公務員が出身校を優先し個々の能力が評価されない仕組みである事に気が付き、
市役所を退職した。
  そして、父親同様家を出て父親の生まれ故郷である北海道にやって来た。彼は
全道各地を転々として農業、漁業、観光業などと自分に合う職を探し続けた。人柄
の良い佐藤君は農家や漁師の後継者にと何度も請われたが、それで一生を過ご
すわけにいかないと断り続け、居辛くなってはまた転々とした。
175


  どんな仕事が自分に向いているのか見つけられぬまま、悩んだ挙句30歳を超え
てから辿りついたのが爺さんが経営するちょん月食堂だった。
皮肉な事に父親が
嫌って家出したちょん月食堂にその息子が秋鮭のように戻ってきたのである。爺さん
夫婦は突然現れた孫にびっくりもしたが大いに喜んだ。
  しかし、跡継ぎのいない2人は少しずつ減り続けるお客のために新たな投資も出
来ず、食べるだけがやっとの状況になっていたのである。せっかく孫が居ついた時に
は前にも進めず撤退も出来ない、にっちもさっちも行かない有様になっていた。
  ちょん月食堂はこれからどうなるのか?どうするのか?周囲の商店が心配してい
た。しかし、お互い明日はわが身の現実だった。

  さて、金森支配人の宿題を背負った神田はキャンドルナイトの催しに協力してくれ
た商店を1丁目から順に周って行った。
  3丁目の蓮華堂不動産ビルで猫じゃら小路商店街振興組合の理事長である立川
社長にお礼を言い、同ビルの4階に間借りしている猫じゃら小路商店街振興組合へ
向う。
 「黒川事務局長、一昨日はありがとう、お陰で大盛況でした」
176

タイトルイメージ   タイトルイメージ 本文へジャンプ



第8話 さまよえる子羊  その2 ★★






















           

         



































































































































前のページへ 次のページへ


トップページへ戻る