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ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

    
 「神田さん、あの後大変だったんですよ」
  6月23日の朝、神田が仏壇屋 蓮華堂のドアを開けると、金森支配人が待ち構え
ていたように神田の後をついて2階の猫じゃら工房へ上がる。
 「金森さんどうしたの?朝から」
 「一昨日の夜、ちょん月食堂でトラブルがあったんですよ」
  6月21日、キャンドルナイトが始まってすぐさま、立川理事長はその成功を喜び、
木枯社長はじめ数人とちょん月食堂で一足先に祝杯を上げていた。神田と高木まり
子が後片付けをして遅れて駆けつけた時、先発隊はすでに出来上がっていた。
 「トラブル?私が食堂にいた時は何も起こらなかったと思ったが・・・・・・」
 「もめ事が起こったのは皆さんが帰った後です。私と黒川事務局長はその後も意地
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汚くお酒を飲んでいたんです、そしてふと気がつくとひちょりと黒川事務局長とが食
堂の片隅で何かもめてんですよ」
 「ひちょり?」
 「ええ、ちょん月食堂の若旦那佐藤氏のあだ名ですよ、坊主頭で顔が長く、目が一
重で、ひょうきんで、何となく日本ハムの森本稀哲(ひちょり)に似ているでしょ、うち
の半井さんが『ひちょり』『ひちょり』と呼ぶもんだから、つい」
 「ははは、『ひちょり』とは良く言ったもんだ。しかし、あの日佐藤の若旦那は自分の
店で前祝をしてもらってご機嫌だっただろう?」
 「そうなんですけど、黒川事務局長ともめてから機嫌が悪くなったんですよ。訳を聞
いても2人は教えてくれないんですよ。いつも仲良くやっていたのに何があったんで
すかね?」
 「さあ、俺には思い当たる事はないが・・・・・」
  神田はそうは言いながらも、
同年代で日頃仲の良い2人がもめていたと聞いて捨
てては置けない。2人は猫じゃら工房のイベントに率先して協力してくれる仲間だか
ら仲たがいされ
ても困るのである。
 「私はどうも気になるんですよね」
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  金森支配人はしつこい。
 「分ったよ、これからキャンドルナイトのお礼に商店街を回るから、黒川事務局長に
もひちょり、いや佐藤の若旦那にもさりげなく聞いてみるよ、後は俺に任せて店に戻り
な」
  そう言って神田は金森支配人を階下へ追いやる。

  神田がちょん月食堂の若旦那佐藤君に最初に会ったのは1年ほど前の2007年
7月の事であった。この時、神田は木枯社長とともに「猫じゃら小路新鮮組」の説明
をしに蓮華堂不動産鰍フ社長室へ行った。するとそこで猫じゃら小路商店街振興組
合の理事達が数人打ち合わせしていて、その中に若い佐藤君がいた。
  30代半ばの長身の彼はいかにも老舗の食堂の若旦那らしく、坊主頭で威勢が良
くユーモアがあり愛想が良かった。彼は神田の説明に共感し、猫じゃら工房の提案を
積極的に支持してくれた。
  この時、神田はかってちょん月食堂で焼きそばを食べた事を思い出し、懐かしく
なって数日後に訪れて見た。7丁目の西角にある木造モルタルのちょん月食堂は年
月を経て全体が古びて、神田の記憶にある学生時代のモダンな食堂の面影はない。
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  後から取り付けたと思われるアルミのドアを開けると、中は広く、室内にテーブルが
五つほどゆったりと並び、食堂か喫茶店か居酒屋か判別できない雰囲気である。昔
の石油ストーブが店の真ん中にあり、煙突が西壁に向って長く伸びている。冷蔵庫
や壁が黄ばみ時の経過を思わせる。まるで何十年か前にタイムスリップしたかの様
である。
  入口から厨房に向う通路の左手奥に椅子があり、腰掛けていた白髪頭のハンサ
ムな痩せた老人が神田を笑顔で迎える。
 「いらっしゃい」
 「猫じゃら工房の神田と言いますが、若旦那いますか?」
 「今、配達に出ているよ、まもなく戻ると思うけど・・・・・・まあ、どうぞお掛けください」
  先代の店主と思われる品の良い老人がお茶を入れる準備にかかる。
 「40年ぶりに来ましたが、何も変わっていませんね・・・・・・いつからやっているんで
すか?」
  神田はなおも店内を懐かしそうに眺める。
 「開業して70年になるよ、一度40年前に建て替えてはいるが・・・・・・」
 「そんなになるんですか?そうするとご主人のお歳は?」

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第8話 さまよえる子羊  その1 ★






















           

         


























































































































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