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デジカメ あしたのジョー

 「ところで6月21日のキャンドルナイトの音楽は決まったかい?」
 「いいえ何も」 神田は音の演出まで頭が回っていなかった。
 「それじゃあ、お勧めしたい曲があるんだ」
 「何ですか?」 
 「モーツアルトのピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』だよ。1969年のライブ録音で、フ
リードリッヒ・グルダのピアノ、カール・ベームの指揮、バイエルン放送交響楽団の演
奏だ。曲も素晴らしいが演奏も凄い、心が洗われる宝石のような名演だ。この曲は荘
厳なキャンドルナイトにはぴったりだと思うよ」
 「そうですか?」
  クラッシック音楽にあまり縁のない神田が気の抜けた返事をする。
 「今度事務所にコピーをお届けするから一度聞いてご覧」
 「ありがとうございます」
  その後2人は取り止めもない話をして小1時間の時を過ごした。 こうして神田の北
山へのお礼の夜が終った。

  不振だった手作り教室もその後の熱心なPRが効を奏して回を重ねるごとに来場
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者数が増えていった。 しかし、このままでは予定している500個にはまだまだ足りな
い。神田は客がいなくてももろうそくを作るよう新撰組のスタッフに頼んでいた。
  それでも不足する計算である。思い余った神田は平日も猫じゃら工房で1人でろう
そくを作り始めた。高木まり子も木枯から言われたのか、時々猫じゃら工房へ顔を出
し、神田のろうそく作りを手伝った。
  廃油は近くのサッポロジャガービアホールの佐々木支配人が手配してくれていた
が、ろうそくを作る空き容器が不足し、神田は黒川事務局長にお願いし商店街から
不要のガラス器、陶磁器を集めてもらった。猫じゃら工房はまるでろうそく工場と化し
ていた。
 (仏壇屋の2階でろうそく作りか?笑っちゃうな)
  そう思いつつ神田はろうそくを黙々と作り続けた。
  こうしているうちに時は「猫じゃら小路キャンドルナイト2008」を実施する6月に
入っていた。 6月8日には秋葉原で無差別殺人事件が起き、14日には岩手・宮城
で震度6強の地震が発生し13人が死亡するなど、日本中が予期せぬ恐怖におの
のいてい
た。
  これらの死者を弔うかのように6月21日土曜日の午後7時、猫じゃら小路7丁目
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に約1,000本のろうそくが灯され、アーケード内の電気が消された。まるで地上に
きらめく天の川のようである。 頭上からグルダの美しいピアノの調べが羽のように
静かに舞い降りて来る。
 「ろうそくの灯りも音楽もとてもきれい。とてもいい雰囲気だわ」

  光のページェントを目の前にいたく感動した高木まり子が今し方マスコミの取材を
終えたばかりの神田に話しかける。
 「うん、想像した以上に厳かで神聖な感じがするね。古代から人類が火に特別な
思いを抱いていた事が分るような気がする・・・・・」
  ほっとした神田はまことに素直である。
  恋人や友達を連れた参加者は自分が作ったろうそくの前に陣取り、楽しそうに
語っている。若者達だけではない、ジジババのカップルもいる。彼らを通行人や見物
人、北山先輩、麻耶や由香達の猫じゃら新鮮組、商店街の人々、マスコミの取材陣
が囲んでいる。
 「こんばんわ、みんなご苦労さん、素晴らしい光景です。こんなに大勢の人が来てく
れて・・・・・・これも猫じゃら工房や新鮮組のみなさんのお陰です」

  そこへ立川猫じゃら小路商店街振興組合理事長がやって来た。後ろに組合の黒
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川事務局長と金森支配人もいる。
 「ありがとうございます、我々だけではありません。商店街の皆さんのご協力があっ
たからです」 神田が立川に頭を下げる。
 「さて、皆さん、まだ始まったばかりですが、良ろしければ猫じゃら小路キャンドル
ナイトの成功を祝って、ちょん月食堂で一杯
やりませんか?」
  立川理事長はよほど感動したのか、珍しくみんなをお酒に誘う。
 「そう来なくちゃあ」
  いつの間に来たのか、木枯が元気良く答え立川の後を追う。またその後に黒川
事務局長と金森支配人が続く。
  お酒の飲めない神田と高木まり子はすぐには動かない。
  神田とまり子は黙って目の前に綿々と連なるろうそくの灯りを見つめていた。神田
はやり終えたものの12月の冬至のキャンドルナイトを考えると頭が痛かった。高木
まり子はまり子でこれからの身の振り方をどうするか考えていた。
  かすかな風に揺れるろうそくの灯りが2人の心の内を覗くようにゆらゆらといつま
でも2人の顔を照らしていた。

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第7話 キャンドル・ナイト  その6★★★★★★






















           

         



































































































































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