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ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー

    
 「金森支配人、このろうそくはどうですか?」
  神田大助は仏壇屋 蓮華堂に入るなり、ぶら下げていた紙袋から変わった形のろう
そくを取り出す。 神田は2時間前にちょん月食堂へ行って戻ったばかりである。
 「手作りろうそくですね。神田さんが作ったの?上出来じゃないですか」
 「娘の食べたプリンの空き容器で作ったのさ、良いだろう?」
  神田は予想以上の出来映えにご満悦である。
  時は2008年3月28日金曜日の夕方である。
 「早速、灯してみますか」
  幸い店にはお客が1人もいない。金森支配人は応接テーブルの上で火をつける。
半井嬢をはじめとして暇そうな他の店員も応接テーブルに寄って来る。
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 「まあ可愛い」
  仏壇屋ににつかわしくないろうそくの登場に半井嬢が甲高い声を上げる。
 「だけど、何かお肉の匂いがしない?」
  しばらくして半井嬢は神田の顔を見る。
 「やはり匂うか?」
  神田があらためて匂いを嗅ぐ。
 「このろうそくの原料は?」
 「ちょん月食堂の廃油さ」
 「通りで・・・・・・そうか?とんかつの匂いだ」
  食べ物に目がない半井嬢が自分の鼻に自信を深める。
 「これを消すのには香りのエッセンスを入れると好いんだって、色もクレヨンを削って
入れると好いんだって・・・・・・前にテレビでやってたわ」
 半井嬢がアドバイスする。
 「単に廃油を固めただけじゃ駄目か?今度はそうしよう」
  神田が素直に応じてろうそくの火を消す。
 「神田さん、何故ちょん月食堂の廃油でろうそくを作ったの?」
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  金森支配人が訳を訊ねる。
 「猫じゃら小路商店の飲食店から出る廃油を使ってろうそくを作り、キャンドルナイト
をやろうかと思ってね」
 「キャンドルナイト?」
 「キャンドルナイトとは一口で言えば電気節約運動さ。数年前から『電気を消してス
ローな夜を』と言うスローガンのもとに、いろいろな団体が全国各地で夏至と冬至に
2時間電気を消す運動を展開しているのさ。これをこの猫じゃら小路でもやってみよう
かと考えているんだ。そのろうそくも商店街の廃油で作るのさ、一石二鳥だろう?」
 「それは良いアイデアですね、今流行のエコと省エネですね。いつやるんですか?」
 「6月21日の土曜日を予定しているんだが・・・・・・」
 「やるんなら場所は当然仏壇屋 蓮華堂があるこの1丁目ですよね。われわれが総
力を挙げて協力しますよ、なあ、みんな?」と周囲を見回す。
 「はいっ」
  金森支配人の掛け声に店員一同にこやかにうなづく。
 「むむむ・・・・・・」
  いつもは瞬時に反論する神田も今回は一歩立ち止まる。神田は金森支配人の気持
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も分からなくはない。蓮華堂の売上は年々落ちているのだ。
  その時、半井嬢が声を上げる。
 「でもこのお店の前でやるのはどうでしょうか?それでは先祖の供
養をしているみ
いで・・・・・・キャンドルナイトの雰囲気とはかけ離れるんじゃあないかしら・・・・・・」
  お店に入って1年たったばかりの若い半井嬢がおずおずと異議を唱える。
 「集まるのは仏教徒ばかりじゃありません、いろんな考えを持った方々が地球のエ
コのためにこの商店街に集まってくれるわけですから・・・・・・」
  神田は金森支配人の気持ちを傷つけないように遠回しに断る。神田は仏壇屋 蓮
華堂の2階に居候の身であり、蓮華堂自体に何の恩返しも出来ず申し訳ない気もす
るが、そこは猫じゃら小路全体の振興のためと割り切らざるを得なかった。
 「残念だなぁ、仏壇屋 蓮華堂を宣伝する良いチャンスだと思ったんだが・・・・・・」
  金森支配人は諦めきれない様子で頭をかく。

  翌週の月曜日の3月31日、当の半井嬢がお茶を持って2階にやって来た。
 「金曜日はありがとう」
 「いいえ、金森支配人も神田さんの気持ちを分っていますよ」
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第7話 キャンドルナイト  その1 ★






















           

         


























































































































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