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小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「すっぽんの淡白な味を楽しむために、これに加えるのは焼きネギと豆腐だけで
す。すっぽんにはコラーゲンなど栄養がたっぷりとあるのです」
  ご主人は神田の心の中を見透かしたかのようにすっぽんの効能を述べる。
 「またまた元気が出るなぁ」
  木枯社長がご機嫌そうにちょび髭をなでる。そう言いながら、
 「おっと、また息子が騒いでいる。ちょっくら行って来る、俺が戻るまで食べるなよ」
  とまた木枯社長が席をはずす。
 「それでロミオとジュリエットはどうしたんですか?」
  神田が目の前の2人に先ほどの話の続きをせがむ。
 「2人は駆け落ちまで考えたが思いとどまった」
  先ほどの鶴田に代わり今度は城下が続きを始める。
 「それで」
 「駆け落ち寸前に立川の親父が中気に当たってね、入院しちゃったんだ。そのうち
仏壇屋も客が減り、資金繰りも悪くなってさ・・・・・・親戚縁者が集まって、1丁目の質
屋「質草屋」に融資を頼んだってわけさ。相手は了解したが一つだけ条件があった」
 「条件とは?」
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 「質草屋の娘を嫁に貰ってくれと言うんだ。この娘は前から立川に惚れてたんだな。
ご存知の通りあいつは今でも好い男だろう?若い時には通りすがりの女の子が振り
返ったほどさ。この娘は立川より一歳年上でそれまで好きだと言い出せなかったもの
が、この融資の一件で表に出てきた、という訳さ。大学卒業後に結婚してくれるなら
融資をしてもよい、と言うんだ。 それで立川は恋人を取るか融資を取るかさんざん
迷ったが、結局は代々続いてきた家業の仏壇屋をつぶすわけには行かないと、この
条件を泣く泣く飲んだ」
 「そんな?それで木枯先輩は?」
 「そりゃ、烈火のごとく怒ったさ、木枯は20年以上立川と口をきかなかったんじゃな
いのかな?」
 「そうですか」
 「我々サラリーマンと違って、自営業は辛いものさ」
 「何が辛いって?」
  木枯社長が厠から帰って来てみんなに訊ねる。
 「ここの八百鶴も経営がたいへんだとさ、そうだな?鶴田」
 「この店で飲み放題で1人3,000円はないよ、みんなたいした心臓だ」
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  鶴田が城下の相槌を打つ。
 「そりゃね仲間だから仕様がないわな。そんな事より早くすっぽんを食べようよ」
  こうして3人はすっぽん鍋に手をつける。
 「鶴田、何かぐにゅぐにゅしたものばかりだな、すっぽんと言うのは?」
  との木枯の声に、
 「そのうち歯が抜けて食べられなくなりますよ、ははは」
  とご主人の鶴田は取り合わない。
 (子牛のすね肉をものすごく柔らかく煮たようなものか、岩塩と昆布と生姜だけの味
付けと言うが、まことに柔らかな癖のないスープだ)
  神田はそう思いながら黙々と食べる。すっぽん鍋は熱くてみんなの頭から汗が吹
き出てくる。鍋の具があっと言う間になくなり、神田がスープでも飲もうと手を出すと、
 「それじゃあ、これで雑炊を作ってきましょう」
  とご主人が残った汁ごと持って行ってしまった。
 「これじゃあ、雑炊を食べてもお腹が膨れないなあ」 神田がぼやく。
 「値段が高くて、お腹が膨れないからお年寄り向けなのですよ。若い人にはとっても
食べさせられません」 城下が解説する。
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 「俺は安くてもう少しボリュウムがあった方がいいな」
 「神田さんはまだお若いからですよ」と城下が言う。
  間もなくすっぽんの雑炊が出てきたが、これも1人ご飯茶碗に軽く2杯だけだ。この
後、シャーベットが出て神田の慰労会が終った。
 「ああ、食った、食った。少し物足りないが、食べ過ぎると戦いが出来ないし、困った
ものだ。鶴田さん、この勘定、立川の会社へ回してください・・・・・・」
  この時だけ木枯社長は鶴田に「さん」づけする。
 
  3人が八百鶴の暖簾をくぐり分け外に出ると、ネオンが煌々と光っていた。
 「そんじゃ、俺はまだ用事があるから」と木枯社長は南に向う。
  城下と神田はロビンデパートの地下鉄入口へ向う。城下が神田に話しかける。
 「神田君、最近、木枯は立川の仕事を手伝っているだろう?それは立川の口実で、
立川は何10年か前の罪滅ぼしをしているのさ、木枯も分っていると思うよ・・・・・・そ
れじゃ、また会おう」
  坂下はそう言って人込みの中へ消えていった。

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第6話 適わぬ恋  その6 ★★★★★★






















           

         



































































































































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