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デジカメ千夜一夜

かんたん酒の肴

おじさんの料理日記

喜劇「猫じゃら行進曲」



小説「眠れない猫」

ベトナム四十八景

デジカメ あしたのジョー
 「特別プレゼント?何だ?」
  ご主人は木枯の問いに答えず、3人の前にグラスと小さなスプーンを置いてゆく。
グラスの赤ワインの中に黄色の丸い物が数個入っていた。大きさは大豆豆の2倍くら
いあるだろうか、大きさは不揃いである。
 「すっぽんの卵?」
  神田が鶏のモツ煮の不揃いの卵を連想し、声を発する。
 「そう、すっぽんの卵です、スプーンでワインといっしょに口に入れてください」
  ご主人の鶴田がプレゼントの正体を明かし、食べ方を説明する。
 「これは精がつきますよ」
  城下が仕事柄内地府県で食したらしく、すっぽんの卵の効能を請け負う。すっぽん
の卵を良く見ると卵の周りを赤い血管が取り巻いている。
 「血走った目みたいだな?生で気持ち悪いな」
  木枯社長が呟く。
 「木枯君、しかし、これは高価でめったに食べられない代物です」
  城下が答える。
 「高価でめったに食べられない?それじゃあ、食べないと。これを口の中でかじるん
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だな?」
  そう言いながら木枯社長がいちばん先に手を出す。
 「うわっ、ゴムまりみたいだな、噛むと濃厚な黄味がどばっと出てくるぞ」
 「だから効くんです」
  城下のこの一言で神田も手を出す。 木枯社長は続いて残りの2個もいっしょに口
に入れ、かみながら赤ワインで流し込む。
 「おっ、何だか効いてきたぞ。ちょっと息子を眺めてこよう」
  そう言ってトイレへ向う。
 「わはは、そんな早くに効かないよ、木枯はビールの飲みすぎで小便を出しにいっ
たんだよ」
  城下が笑う。
 「ご主人、高価な物をご馳走様、正直言ってあまりうまいとは思いませんが、貴重な
体験でした・・・・・・ところで、木枯先輩がいないので同級生のお2人に伺います。立
川理事長は木枯先輩に何であんなに気を遣っているのですか?私はいつも疑問な
んです」
  城下とご主人の鶴田は目を合わせニヤリと笑う。そしてご主人の鶴田が口を切る。
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 「立川は木枯に負い目があるのさ」
 「負い目って?」
 「大学時代木枯の妹を立川が振ったのさ・・・・・・木枯はごついけれども妹はすごい
美人で同級生の間でも憧れのマドンナだった。高校時代から付き合っていて、立川
が大学を出て社会人になったら結婚するというところまで話は進んでいたのさ」
 「それが?」
  神田がご主人の話に身を乗り出す。
 「立川の親父が結婚に反対したのさ、『魚屋の娘を嫁に貰えるか』って」
 「立川さんの家は仏壇屋でしょう?何が問題で?」
  神田が疑問を口にする。
 「そうなんだよ、親父同士は同じ商店街で昔から仲が悪かったそうだ。木枯の親父
はあいつと同じで喧嘩っ早く『仏壇屋に娘をやれるか』とケツをまくったのさ」
  話がそこまで行った時、木枯本人の戻る足音がした。3人は目配せをする。
 「やあやあ、効いたわ、息子も大きくなって」
 「それはビールのせいですよ、木枯は私の倍のスピードで飲むから」
  城下が何事もなかったかのように振舞う。ご主人の鶴田も、
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 「すっぽん鍋の用意が出来た頃だ、持ってくるよ」と席をはずす。
 「ところで、城下、お前はすっぽんの卵は経験あるんだろう?どうだその時すっぽん
の卵は効いたか?」
 「内地の観光先進地視察でね、温泉地泊まりだから、効く事効く事、みんな毎晩出
かけて行ったよ」
 「俺も今晩帰らないかも知れないな」
 「嫁さんが心配するよ」
 「あいつが心配なんかするか、毎晩大の字で大いびきさ。だから別な部屋で寝てい
るんだよ」
 「それじゃ今晩帰らなくとも気がつきませんね、ははは」
  その時引き戸を開けてご主人の鶴田が入って来る。
 「お待ちどうさん、熱いから気をつけてくださいね」
  ご主人自ら煮立ったすっぽん鍋を抱えてやってきた。黄金色のスープの中にすっ
ぽんの黒い甲羅や首や手足のぶつ切りがぽつんぽつんと浮かんでいる。
 (この鍋は隙間だらけだ、こんな物でお腹がふくれるのか?)
  大食漢の神田が心配する。
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第6話 適わぬ恋  その5 ★★★★★






















           

         



































































































































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