んにジョッキのお代わりを頼む。
「小学生のゲーム大会のどこが悪いってんだ?それなら器械を売らせなきゃいい
んだ。教育委員会の馬鹿たれめ・・・・・・」
ここまで言ってから、木枯社長は何か思いついたらしくツバキをごくりと飲み込む。
「そうだ、良い事を思いついた。神田、今度は学生の仮装大会をやれ、それも春休
みにな」
「何で春休みなんですか?」
「それはなぁ」
木枯社長は嬉しそうに「ふふふ」と笑う。城下は2人のやり取りを楽しそうに見てい
る。
「春休みは、中学生でもない、高校生でもない、大学生でもない、社会人でもない、
どうだ、これで教育委員会も口出し出来ないだろう?」
「なるほどねぇ、それは面白い、話題になりますよ」
元さっぽろ市の観光協会にいた城下がこのイベントのアイデァに感心する。
「そうだろう、城下。来年の春休みは仮装大会だ、これで教育委員会に一泡吹かせ
てやるんだ。これで教育委員会がどう出てくるか?楽しみだな。神田、覚えておけよ」
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「分りました」
神田はそう言いながらもスポンサーをどこにするか考えていた。
(さっぽろに貸衣装組合があったっけ?)
「木枯君の教育委員会に対する意趣返しも思いついたようだから、何か食べる物を
頼みますか?」
話が一段落したと見た城下が提案する。
「いいですねぇ、僕まだすっぽんを食べた事ないのですが・・・・・・」と神田が言う。
「すっぽん?それは贅沢すぎるよ。ここに来る俺達は一人3,000円で店の主人に
お任せしているのさ」木枯社長が反対する。
「なあんだ、それじゃあ来るんじゃなかった」
神田がへそを曲げる。
「木枯君、そうは言わないで、小学生のゲーム大会も市の教育委員課まで知れ渡っ
たのですから、ご褒美にすっぽんを頼みましょうよ、私もここ10数年すっぽんは食べ
てません、是非お相伴に預かりたいな」
「城下、この年で精力をつけてどうするんだ」
「そういう事ではありませんよ、今日は神田さんの慰労会だってさっきそう言って彼に
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電話したでしょ・・・・・・」
「そうだな、立川の会社に請求書を回してもらうか」
木枯は早速1階のご主人鶴田に電話で訳を話してすっぽんを注文する。
(やれやれ・・・・・・)
神田は安堵の胸を撫で下ろす。
「さっぽろ市役所も問題だが、日本の国はどうなるんだ?」
木枯社長が今度は政治の話を始める。
7月29日に参院選で惨敗した自民党の安倍首相は続投を決意し、8月27日に
内閣改造を行って政権の続投を図ったが、農水大臣が補助金不正受給問題で辞任、
政権は早くもつまづいた。インド洋に海上自衛隊を派遣するテロ対策特別法の延長
問題で、参院選で圧勝した民主党が反対を表明、小沢民主党党首との会談も出来
ず、安倍首相は後のない瀬戸際に追い込まれていた。9月12日の臨時国会では首
相の所信表明演説に対する与野党各派の代表質問が予定されていたが、安倍首
相の都合で急遽中止された。そしてこの日9月の12日午後2時の記者会見で安倍
首相は「政策推進が困難」と辞任を表明した。
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「本当に困ったものです。」
城下が相槌を打つ。
「『僕ちゃん、みんなの協力がないから出来ない、もう辞めた』だもんな。根性がなっ
てないよ」
木枯が憤懣やるかたない顔をする。
「民自党の議員も参院選の顔と言って安部首相を選んでおいて、政局が行き詰っ
たら、ぼっちゃん首相のお手並み拝見とばかり助けも出さず傍観していますからね」
城下の思いも同じである。
「こういう政治家の自分本位の身勝手な姿勢が、日本の企業、役所、家庭、学校に
蔓延しているんですよ。政治は国民の鏡ですからね」
神田が日頃の思いを述べる。
「みなさん、相変わらず、高尚な話をしていますね」
八百鶴のご主人鶴田が3人の部屋に入って来た。ご主人は小さなワイングラスが
三つ載ったお盆を大事そうに抱えている。
「今日はいつものお任せコースでなくて、すっぽんをご注文いただきありがとうござい
ます。そこでこれは当店からの特別プレゼントです」
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